コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第14回 岐阜県(上)

2003/02/10 20:29

週刊BCN 2003年02月10日vol.977掲載

 「e-Japanや電子自治体ではない、デジタルガバメント(dガバメント)を構築する」――。これが岐阜県の情報化政策の根幹にある。他の自治体との違いを端的に示しているのが、2001年度から07年度までの7年間にわたり、NTTコミュニケーションズに情報システム構築を完全にアウトソーシングしたことだろう。契約事業分だけで、7年間のコスト削減額は39億円弱を岐阜県では見込んでいる。国内では初めてのアウトソーシングだけに、財政難と電子自治体構築に悩む他の自治体も成り行きを注目している。(川井直樹)

アウトソーシングで財政負担軽減、dガバメント構築へ IT化で最先端を走るも、後進性も同居

■大手IT企業の誘致、ベンチャー育成にも尽力

 岐阜県がIT先進県であるのは誰もが認めるところだ。

 梶原拓知事は、政府のIT戦略本部の本部員であり、全国知事会の情報化推進対策特別委員会委員長を務めるなど、自治体IT化ではリーダー的存在。その岐阜県は、県としてCIO(情報統括責任者)を選任するなど、全国自治体でも先進的な政策でリードしている。

 自治体情報システムのアウトソーシングもいち早く決め、大垣市にはソフト産業の集積地である「ソフトピアジャパン」を設立し、大手IT企業の誘致やITベンチャー育成にも力を入れている。

 そうした岐阜県の取り組みとは対象的に、全国規模で進む電子自治体構築で問題となっているのは、十分ではない財政と、業務部門ごとのシステムの統合、市町村との連携だろう。

 財政的な面から見れば、岐阜県が庁内の120システムについて、NTTコミュニケーションズに再構築をアウトソーシングしたのは、大きなインパクトがある。NTTコミュニケーションズは、ソフトピアジャパンにiDC(インターネットデータセンター)を建設することになっており、今年10月にも完成。来年4月から本格的に業務を開始することになっている。

 岐阜県は、NTTコミュニケーションズが大規模なiDCを設けることで、県内市町村のシステム運用を受託するだけでなく、他県からのアウトソーシング受託も期待している様子。それというのも、先端ソフト産業の集積を目指して開発したソフトピアジャパンにとって“象徴的な存在”にもなるからだ。

 アウトソーシングによる情報システムの再構築と運営に関わる費用は、115億5000万円。契約期間の7年間で、アウトソーシングしない場合に比べ約30%減の38億6000万円を削減、さらにシステム再構築で必要になるハード調達費については約47%減の27億6000万円が削減できるという試算を出している。

 しかし、その一方で、県の極端な方針転換に地元システムインテグレータには懸念があるのも事実。地元システムインテグレータの幹部の1人は、「実際に今年度までに地元企業に回ってきた仕事は数千万円程度。それも各企業とも赤字と聞いている」と、アウトソーシングと共に情報化で地元企業の活用を掲げる県の方針を、俄かには信じかねる様子を見せる。

 もちろん、NTTコミュニケーションズがすべてをまかなえるわけではない。しかし、他の地元システムインテグレータ首脳は、「結局、地元企業には自治体業務システム開発のノウハウが少ないため、弱い立場になる」という点を最大の弱点にあげる。

 もともと岐阜県には、自治体が出資する財団法人の岐阜県市町村行政情報センターがあり、市町村の基幹システム開発を担当してきた。そのために、システムインテグレータはなかなか自治体関連事業を拡大できなかったという歴史がある。

 大手ベンダー系の地元システムインテグレータも、「アウトソーシングのために、岐阜の企業がプライムを取ることはない」とあきらめる。

 そのなかで、中部コンピューター、電算システム、タック、セイノー情報サービスの4社はコンソーシアムを組み、NTTコミュニケーションズからの業務受託を拡大していく構え。新たに自治体業務を本格化させようという企業もあれば、これまでの事業を継続させたい企業もある。「問題は115億円の事業費のどれくらいが地元企業に落ちてくるかということ」と語るシステムインテグレータ幹部は真剣である。

■市町村の認識不足、人材不足が影落とす

 岐阜県がdガバメント構築を進める中で解決しなければならない問題は、「市町村の認識不足、情報部門の人材不足」(河田佳朗・岐阜県知事公室情報政策課課長補佐)。

 大きな方針を掲げながら、県についてくる市町村がなければdガバメントは実現しない。財政難と市町村合併でIT化もままならない、という各自治体の言い分もあるが、県は「岐阜県電子自治体推進市町村・県連絡協議会」を設けて、dガバメント構築に関する認識統一を図る方針。

 一方で、人材不足については、「これまで市は別にしても、町村レベルでは行政情報センターへの委託で人材が育たなかった」(河田課長補佐)ことを原因の1つにあげ、今後eラーニングなども駆使して、「各自治体に情報分野のキーマンを育成する」としている。

 すでに岐阜県情報化推進本部がまとめた「岐阜県の情報化に関する年次報告」では、IT化の進捗状況に応じて県内各市町村をA、B、Cのグループ分けをするなど、市町村の自覚を促し“指導”を強化していく方針だ。

 岐阜県は、他の自治体では踏み出せないでいるアウトソーシングをいち早く決めることができた先進性と、市町村レベルではIT化に関する認識も人材も不足しているという後進性が同居している。

 今回、岐阜県市町村行政情報センターはBCNの取材申し入れに対し、「当センターは、県および県下市町村の出資による公益法人であり、県下市町村の要望等による事業展開が主な事業であり、市町村のIT化推進の主役ではない」とメールで回答するにとどまった。

 地元システムインテグレータの首脳が、「ある意味では、県のdガバメント構築で一番微妙な存在になっているのが、行政情報センターではないか」というのは、IT先進県と認知される岐阜県の別の一面を言い当てる言葉だろう。

 岐阜県は、戦略的なアウトソーシングなどdガバメント構築を、「岐阜モデル」と位置づけ、「最小の県民負担で最大の県民福祉を実現する」ことを目指している。また、自治体IT化で先頭を走ることで、IT企業の誘致、ITを活用したサービスの充実などで地域経済の活性化にも役立てていく考えだ。

 しかし、総務省の方針と岐阜モデルが他の都道府県にも普及するかどうかは疑問。他県の情報政策担当者の多くは、岐阜県の取り組みを評価しながらも、「岐阜は極めて特殊なケース」と断言する。


◆地場システム販社の自治体戦略

ソストピアジャパン

■県内外のIT企業146社が進出

 岐阜県のdガバメント構築を象徴する存在が、大垣市にあるソフトピアジャパン。もともとは田畑であったところを造成し、1996年にできたソフト産業団地だ。分譲地には県内のシステムインテグレータだけでなく、NECや富士通といった大手ベンダーが拠点を構えるほか、センタービルの技術開発室にはサン・マイクロシステムズ、マイクロソフトなどの海外企業も入居している。さらに、ソフトピアの重要なミッションの1つにITベンチャーの育成がある。

 創業間もないベンチャーが入る「ドリームコア」には、100室のインキュベーションルームがあり、入居後3年以内でソフトピアでの事業を継続しさらに広いスペースを求める場合は、「ワークショップ24」と呼ばれる施設に移ることができる。

 ソフトピアジャパンの渡辺貴代好・ビジネスサポートセンター副グループリーダーは、「大手および県外企業が35社、地元企業が49社、ベンチャーが50社活動しており、全体では146社が進出。就労者は1700人。05年には5000人規模を見込んでいる」と、現在の3倍以上の規模になるという。

 進出企業にとっては、「大手企業もITベンチャーにとっても、『懇談会などを通じて情報交換が活発になった』と好評」とか。ここに進出しているベンチャー企業が中心になって、「岐阜ITベンチャー共同組合」が発足するなど、結束も強まっている。

 ただ、他県の起業家が安い事務所費用と情報に惹かれて入居し、事業化の段階では地元に戻ってしまうケースもないわけではない。それでも、「アライアンスや事業化の橋渡しなど、ソフトピアにいる意味は大きい」とメリットを強調する。
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