e-Japan最前線
<e-Japan最前線>30.ITスキル標準
2003/02/03 16:18
週刊BCN 2003年02月03日vol.976掲載
人材の流動化が可能に
IT技術者の実務能力(スキル)を体系化した指標となる「ITスキル標準」のバージョン1.0がこのほど策定された。経済産業省がIT業界やユーザー団体などと協力しながら約1年半かけて開発を進めてきた。IT技術者のなかでも、とくに不足していると言われるスキルの高い技術者を体系的に育成していくための基盤となるもので、今後はスキル標準に基づいた研修コース体系や内容を示した「研修ロードマップ」の作成や、人材育成システムの開発などを推進していく。
「もはやハードを売る時代ではなく、サービスをバリューとして提供する、人のスキルそのものが商品となる時代。しかし、スキルそのものがこれまで明確な形で体系化されていなかった」(商務情報政策局情報処理振興課・平山利幸氏)。ITスキル標準を策定した背景には、商品そのものであるIT技術者のスキルの定義がIT業界内でも不明確で、サービス提供を受けるユーザーが混乱する状況も生んでいたからだ。
半年ぐらい前に大手不動産会社のIT担当役員を取材した時、派遣された技術者のスキルとフィーとのギャップがあまりに大きかったためにトラブルとなり、「これまでに大手ITベンダー2社を出入り禁止にした」といった話を聞いたことがある。そうしたトラブルもIT技術者のスキルに対する共通認識の基盤がなかったことに起因している部分もあるだろう。裏を返せば、産業としての基盤が未整備だったわけで、ITスキル標準はまさに基盤整備の第1歩と位置づけることができる。
ITスキル標準は、スキルの全体像をフレームワークという形で描き出した。まず、職種をマーケティング、セールス、コンサルタント、ITアーキテクトなど11種に分類し、各職種を専門分野ごとに細分化、合計38の職種・専門分野を設定した。さらに、それぞれの職種・専門分野を、エントリレベルのレベル1、2、ミドルレベルの3、4、ハイレベルの5-7に分けた。職種・専門分野にスキルレベルを掛け合わせて、IT技術者を145のスキルに分類するという体系だ。
この145のスキルそれぞれに、スキルのレベルを判断する達成度指標が設けられており、「プロジェクトを推進していく上で不可欠なリーダーシップやコミュニケーション能力、ネゴシエーション能力も指標に加えた」(平山氏)のが特色だ。
経済産業省では、これまで技能レベルを評価する情報処理技術者試験制度を実施してきた。この技能資格が、今回のITスキル標準で、どこに位置づけられるかは検討が進められているが、資格をもつことが全てのスキルを達成していると扱われることにはならない見通しだという。
現在、ITスキル標準に基づいて研修ロードマップを策定中で、今年3月を目途に公表する予定だ。研修の全体的な構成や内容を示したもので、具体的なカリキュラムはそれぞれの教育機関などが独自に工夫しながら開発していくことになる。ITスキル標準が今後定着していけば、IT技術者の給与体系や技術者派遣のサービス料相場などにも大きく影響を与えることになるだろうし、人材が流動化しやすい環境が生まれる可能性は高い。さらに発注者側の意識もIT技術者のスキルを客観的に判断できる指標ができることで大きく変わるだろう。
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