中国ソフト産業のいま

<中国ソフト産業のいま>1.「中国脅威論」を捨てる

2003/01/06 20:43

週刊BCN 2003年01月06日vol.972掲載

 「ソフト開発の下流工程は、急激に中国へシフトする」(大手コンピュータメーカーのソフト開発部門幹部)。日本のソフト産業の中で、中国の存在が日増しに大きくなっている。(坂口正憲)

 「世界の工場」として発展する中国は2002年、IT関連製品(ハードウェア)の生産高で日本を抜き、米国に次ぐ世界第2位の地位を確保した。だが、中国はこれで満足していない。全世界で70兆円の規模があるソフト産業の中で、中国が占める割合は1%台。国を挙げて、ソフト産業のキャッチアップを進める。

 中国国内に19か所ある国家管理のソフトウェア産業基地には、日欧米の大手ITベンダーが軒並み本格的な開発拠点を設ける。その周辺では、新興の中国企業が育っている。中国のソフト産業は96年以降、年率30-40%の高度成長を誇る。

 その中で、日本の大手ITベンダーがソフト開発の一部工程を中国に移し始めている。人件費の低さから労働集約のプログラミング作業を移管するだけでなく、Javaなど最新技術を駆使する技術者が豊富なため、システム設計から中国企業に委託するケースが増えている。

 当然、下請け型の受託開発を柱とする中小ソフト会社にとっては脅威に映る。「製造業のように、国内産業の空洞化が起きる」と心配する声が聞かれる。

 ただ、この連載は何も「中国脅威論」を唱えるつもりはない。確かに、中国ソフト産業が成長することで、日本で悪影響を受けるソフト会社はあるだろう。ただ逆に、中国の開発リソースを利用する企業が出ている。また、中国経済(消費市場)発展の恩恵を受ける企業も出現している。

 短・中期的に見れば、日中の経済関係は深まりこそすれ、停滞することはない。経済のグローバル化は不可避なのだから、脅威を唱えていても意味はない。自らが国境の枠を超えて、利用できるリソースは利用し、獲得できる市場は獲得する。それぐらいの覚悟が必要だろう。

 今後、数か月にわたる連載で、中国ソフト産業の現状を分析しつつ、日本のソフト会社がいま中国とどのように向き合っているかをレポートしたい。その中から共栄の道が探れれば、幸いである。お付き合いのほどお願いします。
  • 1