e-Japan最前線

<e-Japan最前線>24.GISの開発に着手

2002/12/16 16:18

週刊BCN 2002年12月16日vol.970掲載

 国土交通省が、GIS(地理情報システム)を一般家庭や教育分野でも幅広く利用してもらおうと、国民に無償公開するGISアプリケーションの開発に着手した。今年9月に企画提案を一般公募したところ65件の応募があり、このうち11件がこのほど選定され、開発を委託することが決まった。来年2月までには成果物が納品され、早ければ来年3月には同省のホームページから無償でダウンロードできるようになる見通しだ。

地図データの共有化進展

 GISアプリケーションは、これまで行政分野での利活用を先行してきた。役所では地図上でデータ管理を行っている業務が多く、GIS導入によって地図データの共有化が進み、業務効率が向上するとの期待は大きい。一方、一般家庭や教育向けの利用はまだこれからの分野である。

 GISの普及を目的とした今回の無償アプリケーション開発では、2つの効果も狙っている。1つは、国土数値情報や国土地理院の電子地図など、GISの利活用に向けて整備してきたインフラを、一般国民にも広く活用してもらうこと。もう1つは、一般家庭や教育向けにどのようなGISアプリケーションのニーズがあるのかがまだ読めない状況のなか、国が先行的にアプリケーションを提供することで、GIS関連ビジネスの育成を図ることだ。

 工夫を凝らしたアイデアを少ない経費で実現するため、無償アプリケーションの著作権は開発者側に残す措置を取る。利用者の声や反響を生かしてバージョンアップしたアプリケーションを、ソフト開発会社は有償で販売できる。

 「技術的に優れているというよりも、GISの新しい可能性を示すアイデアを重視して、実際に利用するシーン(場面)が思い浮かぶような、ユニークな企画提案が審査委員会で選ばれた」(同省国土計画局総務課国土情報整備室・塩本知久課長補佐)。選考された11件の内訳は、一般家庭部門が7件、教育部門は4件。応募件数は一般家庭部門21件に対して教育部門44件。

 一般家庭用アプリでは、すでに実用化が始まっているGPS(全地球測位システム)携帯電話に、GISを連携させた企画提案が目立った。ジャスミンソフト提案の「地図連動型電子日記システム『e-日記』」は、GPS携帯から自宅のパソコンにメールを送ると、メールを送った場所とその内容をGISに取り込めるもので、地図上で自分の行動記録を管理できるというアプリだ。日本リサーチ総合研究所の「道路情報による地域コミュニケーション・システム」も、GPS携帯を利用して地域コミュニティ内の情報を交換できるようにする。

 地図とは切っても切れない旅行を題材にした提案も多かった。東亜コンサルタントの「自分の足跡記録マップ(自分旅行史)」は、カード型データベースソフトとGISを組み合わせて、地図上で旅行記録を管理できるようにするもの。ユニークなのは、2次元地図の等高線データから、紙で山などの簡易立体模型を作れるNECソフト提案の「立体模型用型紙作成アプリケーション」。教育的効果も期待できると評価された。

 一方、難関だった教育部門では、エヌ・シー・エム提案の「地理から眺める歴史―邪馬台国の所在地はなぜ特定できないのか」が大人にも受けそうな企画だ。地図上で邪馬台国伝説の所在地を、さまざまな仮説をもとにシミュレーションする。このほか、ゲーム感覚で学習できるESRIジャパン提案の「GISアドベンチャー」などが選ばれた。果たして、どのようなGISアプリケーションが人気を得ることになるのか。GIS関連商品は、電子地図さえ入れ替えれば、世界市場で売れる可能性を秘めているだけに、産業育成にも大いに力を入れていく必要があるだろう。(ジャーナリスト 千葉利宏)
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