e-Japan最前線

<e-Japan最前線>23.専門調査会が始動

2002/12/09 16:18

週刊BCN 2002年12月09日vol.969掲載

 e-Japan戦略の見直し作業が本格的にスタートした。先月22日、IT戦略本部の下に新しく設置された「IT戦略の今後の在り方に関する専門調査会」の初会合が開かれ、IT戦略本部から参加した出井伸之ソニー会長、鈴木幸一インターネットイニシアティブ社長、村井純・慶大教授の3人に加えて、総勢17人の委員が集まった。

e-Japan戦略見直し本格化

 第2回会合では今後のスケジュールなどが協議され、来年春頃には新しいIT国家戦略の方向がまとめられる見通しだ。

 現在のe-Japan戦略が策定されたのは、前・森喜朗内閣時代の2001年1月。「5年以内に世界最先端のIT国家をめざす」との目標に向けてさまざまな施策を展開してきた。今年9月中旬に開催された第14回IT戦略会議で出井会長も「非常に成果があったと考えている」と発言。IT国家戦略の第1段階が一定の成果をあげ、ひと区切りしたとの認識が示され、第2段階へと進むという方向性が示されたわけである。

 出井会長がこの時に会議に提出した資料の表題が「小泉IT戦略への期待――IT戦略なくして構造改革なし」。
 11月上旬に開催された第15回IT戦略会議で、冒頭に紹介した専門調査会の設置が決まり、具体的な作業がスタートしたわけだ。

 今回の見直しのポイントは大きく6つに整理されている。第1にITの利活用の視点をより重視すること。「竹中平蔵前IT担当相の時からも努力は行ってきたが、やはり成果を国民に分かり易い形で示していく、ITの利便性を実感できるようにする必要がある」(内閣官房IT担当室・関啓一郎参事官)との認識だ。

 第2に日本の産業再生、国際競争力の強化という視点。一部の国際競争力のある企業、自動車や家電メーカーではIT化が進んでいるものの、そのほかの産業ではITの活用がまだ不十分で、企業のブロードバンド化も思ったほど進んでいないのが実態だ。企業がITを経営戦略のツールとしてもっと積極的に活用することで、日本の競争力を向上させていくことが求められている。

 第3に、情報家電など日本の強みを生かした独自戦略の立案だ。いくら国際競争力を強化すると言っても、「各国にはそれぞれ固有の事情がある。日本の場合、国土が狭い、国民の教育水準が高いが、高齢化が急速に進みだしている、といった事情を踏まえて強い部分を生かしていくことが必要」(関参事官)との認識だ。

 第4に、高齢者、障害者などの社会参加促進を含む利用者の視点だ。
 例えば、ネットショッピングや電子申請にしても、健常者にとってみれば、多少便利という程度のものかもしれないが、高齢者、障害者にとっては非常に有効なツールであることは間違いない。

 第5に、アジア地域を視野に入れた国際的な視点、第6に、現在のe-Japan戦略が期限としている05年のあと、06年以降も世界最先端のIT国家であり続けるための戦略である。

 専門調査会では、こうした視点を踏まえて新しい戦略の方向性を12月9日に開催される予定の第16回IT戦略会議に提出。その後、新戦略案の検討に入る。

 11月上旬に、出井会長が書いた小泉内閣メールマガジンへの特別寄稿にはこう書かれている。
 「第2段階のIT戦略を切り口に、規制、税制、労働市場の改革などオープンな社会環境を整備していけば、日本が再び世界をリードし、世界に貢献できると確信しています」
 ITを活用して閉塞感すら漂う日本社会システムをどのように変えていくのか。その戦略がなければ、確かにITも単なるリストラの道具で終わってしまうことになりかねない。(ジャーナリスト 千葉利宏)

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