WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>連載第133回 IBMの新戦略

2002/12/09 16:04

週刊BCN 2002年12月09日vol.969掲載

 2002年10月30日、IBMのサミュエル・パルミサーノ新CEOは就任後初めて、ニューヨークに同社300社の大ユーザー幹部を集め、IBMの新戦略「オン・デマンド・コンピューティング」を説明した。

オン・デマンド・コンピューティング

 2002年10月30日、IBMのサミュエル・パルミサーノ新CEOは就任後初めて、ニューヨークに同社300社の大ユーザー幹部を集め、IBMの新戦略「オン・デマンド・コンピューティング」を説明した。
 オン・デマンドとは文字通り「市場要望に応じて」という意味で、ユーザー側のこれからの「eビジネスモデル」とIBMの「ITサービスモデル」という2つの意味を含む。

 顧客にとっても、「ビジネス上、関連する企業と最終顧客までを包含したeビジネスを、市場環境や経済状況に応じてダイナミックに変革する」ことを意味する。
 この顧客のビジネスモデル変革を支援するため、基盤となるITソリューションを臨機応変に対応させるサービスをIBMが提供するのが、IBMの新戦略だ。

 具体的にはIBMのデータセンターを世界規模でネット接続してグリッド・コンピューティング網を構築し、その上で電気、ガスのように使用したITインフラに対応した従量制料金のネットワーク・アウトソーシング利用で、顧客要求に即刻対応するソリューションを提供する。
 IBMはこのサービスを電気などと同じ公共サービスという意味で「ユーティリティコンピューティング」と呼ぶ。

 パルミサーノCEOはこの戦略展開に100億ドル(1兆2000億円)を投入すると説明した。
 このパルミサーノCEO戦略について、米ウォールストリートは評価後に反応し、大方はIBM戦略を高く評価した。
 米メリルリンチのアナリスト、ジョン・ハーマー氏は、「この戦略はIBMが再び大きく伸長する基盤になる」と前置きして次のように解説した。

「パルミサーノCEOの前任ルイス・ガースナー氏の手腕によってIBMは巨額赤字の沈没寸前の巨艦から見事復活した。しかし、ガースナー前CEOはIBMを以前のように高い成長軌道に戻すことはできなかった。ガースナー時代、IBMの売上高伸長率は年平均4%にとどまった。しかし、この間、世界IT市場は大きく伸び、1992年から00年間に米国IT投資額は2.6倍にも膨らみ、マイクロソフト、インテルなどが巨大企業に成長したがIBMは高成長軌道から取り残された。これに対し、パルミサーノCEOに市場が期待するのは、高利益体質のIBMではなく、年2ケタの売上高が伸びるIBMだ。今回同CEOが発表したオン・デマンドのコンピューティング時代、IBMは再び高い伸長を示すだろう。グリッドやオン・デマンドでIBMは着々と開発成果を積み上げ、世界に対抗できるITベンダーは今のところ見当たらないからだ」

 しかし、ハーマー氏はIBMが当戦略で成功するには次のような条件があるとつけ加える。
「IBMのオン・デマンドは、ITコスト削減に悩む大企業が積極的に受け入れるだろう。問題はSMB(中小企業)にどう普及させるかだ。これにはIBMチャネルパートナーの協力が欠かせない。パートナーとビジネスチャンス、利益を共有する具体的提案が待ち望まれる」。
 11月中旬、IBMション・ジョイスCFOは03年からのIBM大幅増収増益計画を公言した。
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