OVER VIEW
<OVER VIEW>サーバー新戦略を展開するIBM Chapter4
2002/11/25 16:18
週刊BCN 2002年11月25日vol.967掲載
IT産業ビジネス形態の変革
■不況のたび、新たなコンピューティングへのシフト米調査会社ギガ・インフォメーション・グループは、1960年以降世界企業ITシステムは世界的景気低迷の度に新しいスタイルにシフトしてきたと説明する(Figure19)。
70年代のオイルショック時にIBMメインフレームのダム端末、磁気テープ/ディスク、プリンタにIBM互換が多数使われ始め、「IBMプラグ・コンパティブル・マシン(PCM)」が一大産業となった。
82年のミニコン革命、91年のクライアント/サーバー普及時はいずれも世界GDP伸びが平時の3分の1以下、1%台に落ち込んでいた。IBMは01年からの世界不況時に再びシフトが起き、それはグリッドコンピューティングだと主張する。
「グリッド」という表現は電力網(パワー・グリッド)に由来し、多くの発電所の余剰電力を需要ピークを迎えた配電所に集めることを意味する。
これと同じように、多くの既設サーバー、ストレージをネット接続し、処理能力容量の不足するサーバー、ストレージに余剰IT資源を即時に集結するのがグリッドコンピューティングだ。
これの上に展開されるユーティリティコンピューティングとは、水道、ガス、電気、電話と同じように従量制料金のITサービスを意味し、これをIBMは「人類の発明した第5の公共サービス(ユーティリティ)」と説明する。
IBMはグリッドとこの上に展開されるユーティリティコンピューティングを実現するために、自己治癒機能などを開発するプロジェクト「eLiza(イライザ)」を発足させ、この成果を統合してオートノミック(自律的)コンピューティング具現化に向けて活動する。
オートノミックでは、デスクトップからメインフレームまでの大規模システム自動管理を実現する。今やオートノミックは世界有力ITメーカーが最も重視する次世代機能となり、IBMはこの分野でHPの「ユーティリティコンピューティング」、サンのバーチャリゼーション「N1」と競合する(Figure20)。
ギガのアナリスト、ブラッド・デイ氏は、「オートノミックはマルチプラットフォームに対応するこれからのITに必須の機能」と説明し、IDCのアナリスト、ジョン・ハンフレイズ氏は「オートノミックは現行と次世代ITの橋渡し機能」と解説する。
■何フェーズかに渡って進化するグリッドコンピューティング
既にグローバルに分散設置されたサーバー、ストレージ群にグリッドミドルウェアを加えてバーチャルのサーバー/ストレージを創造するのがグリッドコンピューティングである。グリッドは既設IT資源の活用最大化、高いITアベイラビリティ、簡素な操作環境を実現する。IBMはグリッドのデータベース、アプリケーション共用によって、バーチャル企業が誕生すると説明する(Figure21)。
IBMはグリッドは2つの方向でそれぞれ発展すると説明する。1つはグリッドはウェブインフラITと同じように同一企業内にとどまるイントラグリッドを出発点とし、複数企業間のエクストラグリッド、そしてグリッドインフラを提供するグリッドサービスプロバイダ(GSP)とも接続されるインターグリッドへ発展する。このインターグリッド上に従量制料金のユーティリティ・コンピューティング・サービスが実現する(Figure22)。
もう1つの発展の方向は、プロセシング→データ→サービス→ユーティリティという経路だ。当初グリッドは超スパコン能力を実現するプロセシンググリッドとして誕生し、これが商用のコマーシャルグリッドへと変化する。その第1段がデータマイニング基盤となるデータグリッドで、それが長時間無停止コンピューティング提供のサービスグリッドへと変化し、最終的に第1の方向と同じくユーティリティインフラに収斂する(Figure22)。
IBMはウェブアプリケーション同士を連動するウェブサービスでは処理パワー、データ容量の一時的、恒常的需要爆発が起きるので、グリッドITが必須になると説明する。
■販売からサービス提供へと変革するITビジネス
02年10月末、IBMサム・パルミザーノCEOはニューヨークにおいてIBMの新しいビジネスコンセプトを発表した。同CEOは、ITビジネスはこれまでの「販売(セリングコンピュータ)」から「コンピューティングサービス提供(セリングコンピューティング)」に移行すると説明した。
このビジネス形態シフトにIBMは100億ドル(1兆2000億円)を投入する。米IT業界はIBMのこの発表を97年に同社が初めて提唱した「eビジネス」に匹敵する重要な出来事と捉えた。
現行ITビジネスはハード、ソフト、ITサービス、通信はそれぞれユーザーに販売され、ユーザーは購買代金を支払う。これに対し次のITビジネスはITすべてがトータル・ソリューションとして提供され、ユーザーは月次従量制サービス料金を支払うようになる。即ち企業ITはこれまでの「所有」から、公共コンピューティングサービスの「利用」へとシフトする(Figure23)。
IBMによると、次世代エンタープライズコンピューティングはオープンプロトコルを介して仮想化された共有IT資源にアクセスする形態へと移る。これによってIT利用による高い生産性向上、システム効率化追求によって、エンタープライズコンピューティングのTCO(所有総コスト)を大幅に削減し、経営環境からの厳しいROI(投資効果)追求にも耐えられるITが実現するとIBMは解説する(Figure24)。
この実現によって、IBMは「完全なソリューションベンダー」に転換できると強調する。即ちIT企業のビジネス形態はまず、ハード・ソフトベンダーからITサービスベンダーへと変遷し、次世代はソリューションベンダーに移ることを示唆する。
IBMはITインフラの基幹となったサーバー、ストレージ戦略は「ハード販売の戦略強化」の観点からではなく「ソリューション提供の戦略強化」を重点に推進されていると理解することができよう。
世界のITビジネスは大企業対象だけでなく、SMB(中小企業)対象もIBMのいうような方向に変化するのは間違いないだろう。
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