コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第4回 岡山県(下)

2002/11/25 20:29

週刊BCN 2002年11月25日vol.967掲載

 岡山市が掲げる地域IT化構想は、「情報水道」。蛇口をひねれば水が出るように、どこでもネットワークにアクセスすれば”情報が溢れ出る“ことを目指している。そのための光ファイバー網設置もさることながら、利用する市民に対する教育・啓蒙活動も重要になる。電子自治体を構築しても、それを利用する市民が少なければ何のメリットも生まれない。岡山市では市民参加型のIT利用を実践。電子町内会や学校教育でのIT利用を積極的に進めている。岡山市で市民のIT参加への工夫を見た。(川井直樹)

市民参加型のIT利用へ 教育・啓蒙活動を促進 「情報水道構想」に向けた施策を展開

■地域IT化の目標は「LitCity」

 岡山市は、地域IT化を進めるために光ファイバー網を整備。それら光ネットワークで事業所や学校、家庭を結んだ自治体の姿を「LitCity」と呼ぶ。「Lit」とは「光化された」という意味。高速ネットワークで大量の情報が行き交うIT都市をイメージした。

 市民へのIT普及を進めるために、市役所が率先してIT施策を講じるだけでなく、第三セクター方式で「リットシティ」(資本金4億6000万円)を2001年5月に設立した。リットシティの株主には、岡山市のほか、山陽新聞社やベネッセコーポレーション、両備システムズ、中国銀行といった地元企業だけでなく、日立製作所、NEC、富士通、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)、NTT西日本、NTTデータなどIT関連大手が名を連ね、住友商事や三菱商事などの商社も参加している。

 リットシティは、岡山市のITコンセプトである「情報水道構想とリットシティ」を、全国自治体のモデルケースとして普及を狙うとともに、岡山市の市民参加型IT事業の裏方としてヘルプデスクの運営も受託している。

 リットシティの片岡俊治・取締役eビジネス事業部本部長も、「岡山市のIT推進の特徴は、市民へのIT教育による裾野の拡大」と語る。

 ヘルプデスクには、ITスキルをもった失業者を多くパートで採用。「失業者対策とともに厚生労働省からの補助金で人件費を抑えることができる」(片岡取締役)という。ヘルプデスクでパート雇用されている人材には20代の若い人たちが多い。

 市民のIT参加の実例の1つが電子町内会。町内会を通じて市と市民の連係を深めるのが狙いで、それを電子的に行おうという事業。市からは、例えばゴミ回収の日時連絡やアンケート、住民側からはITに関する質問や市に対する要望などのやり取りができ、町内会メンバー同士の情報交換にも利用できる。

 今年3月から運用を開始し、7月末の段階で参加しているモデル町内会は7か所。新たに12か所が加わることが決まっており、参加者は700人近くになる見込みだ。岡山市では、「当初は戸惑いもあったが、始まってみれば参加を希望する町内会が増えてきた」(粕谷明・岡山市企画情報政策部情報政策課電子自治体担当課長)と感触は上々のようす。

■「e!市役所実証実験」、岡山市でスタート

 10月中旬。岡山市内の市立芳明小学校を、マイクロソフトのオーランド・アヤラ上級副社長が訪れた。「ブロードバンドスクール」の実証授業を見学するためだ。岡山市が行っているブロードバンドスクールは、学校にパソコンを配布してパソコン講習を行うのと違い、普段の授業にパソコンを利用しようという実験だ。

 芳明小学校では「パソコン教室に40台、メディアルームには15台のノートブックパソコンを配置」(森脇利夫校長)するなど、パソコン教育の環境は整っている。

 今回の実験は、パソコン自体の講習とは異なり、無線LAN接続できるノートパソコン40台を通常の授業に活用し、生徒達は自分の教室でパソコンを使った授業を受ける。無線LANで教師のパソコンと接続されているため、生徒それぞれの授業の理解度やパソコンの習熟度も分かる。

 アヤラ上級副社長は授業見学後、「教育市場はマイクロソフトにとっても重要な市場。こうしたブロードバンドスクールは、さらに普及すると確信している」と語り、岡山市の実証授業に関心を示した。

 アヤラ副社長が岡山市を訪問した公の目的は、もう1つ。新製品のタブレットPCを岡山市内のホテルで披露し、セミナーを開催すること。岡山県、岡山市というIT先進自治体はマイクロソフトにとっても、重要な顧客になっているわけだ。

 IT利用が進んでいる自治体には、e-Japan戦略を進める政府の支援事業も貢献している。「インターネット基盤技術の高度化(e!プロジェクト)に関するシステムの実証および調査研究」で総務省の「e!市役所実証実験」プロジェクトが、03年2月から3月末まで岡山市で行われる。また、経済産業省では、同じくe!プロジェクトで「e!町内会」を同時期に行う。e!市役所の委託を受けたのはNTT西日本、e!町内会は日立製作所が受注した。

 これに対し地元企業の間では、「事業計画にe!プロジェクトを織り込んでいたが、当てが外れたというのが正直なところ」(岸俊克・リオスコーポレーション公共ビジネスカンパニー副カンパニー長)と、大手の攻勢に落胆の色は隠せない。

 リットシティの片岡取締役も、「これまで岡山市のIT事業は地元システムインテグレータが支えてきた」とし、地元システムインテグレータに参加のチャンスを見出したい様子。

 一方、日立は「岡山市には介護保険システムを納入している」(三柴広・公共システム営業統括本部営業企画本部電子行政営業支援センタ長)と実績をアピール。「市町村合併やシステムの共同運用でユーザー数は確実に減少する」(同)と見て、岡山市をモデル事業に全国波及を狙う。

 11月15-17日。岡山市内の展示会場「コンベックス岡山」で、「全国マルチメディア祭2002in岡山」が開かれた。会場では地元システムインテグレータに加え、大手ベンダーが出展。ここでも、岡山県および岡山市などの県下自治体の案件獲得に向けて、プレゼンテーション合戦を繰り広げていた。


◆地場システム販社の自治体戦略

岡山情報処理センター

■信頼関係で地元の強みを

 岡山市に本拠地を置く岡山情報処理センター(OEC)。NEC系の地元システムインテグレータとして、岡山県内を事業エリアとしている。自治体向け営業を担当する公共ソリューション部の上田泰部長は、「自治体を含めて公共関係の売上高の今年度予想は10%増の25億円を見込んでいる」と、自治体IT化での事業拡大を狙う。

 その自治体では、市町村合併とともにメインフレームやオフコンから、C/S(クライアント/サーバー)に移行しようというニーズ出てきたという。「各役場の業務の電子化、住民サービスの電子化は今後避けて通れない。といって、財政も限られ情報システムに関わる要員も不足している。システムコストも増大しており、もっと安く導入し、運営できるシステムへの移行が検討されている」と、変化するニーズを分析している。

 もちろん、共同運用という方向も出ており、「何もかも自分のところで保有する、コンピュータありきという考えが変わりつつある」という。

 それに対応して、「ビジネスの形も変わらなければならない」と語る上田部長。「ハード売りだけでは利益は出ない。自治体向けパッケージとサービスをより重視する」ことをまずテーマに挙げている。

 自治体需要を狙って大手も攻勢をかけている。同社もNECとの協力体制がある。「最後は信頼関係を大事にするかどうか。地元密着のシステムインテグレータはそこが強み」と、生き残りに必要なのは会社の規模だけではないとしている。
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