コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第3回 岡山県(上)
2002/11/18 20:29
週刊BCN 2002年11月18日vol.966掲載
情報ハイウェイを武器に中・四国のハブ目指す 来年度末には2500種の申請を電子化
■「特区」設けIT企業の創業、誘致を支援「岡山情報ハイウェイ」は、96年4月の構想着手から1年後には、岡山市と倉敷市の間を光ファイバーで結んだ。01年3月末までに基幹回線の設置を終えており、各市町村へは今年度末までに接続を完了。次なる課題は、各家庭へのブロードバンドネットワークの構築だ。
早期にネットワークインフラの構築に着手し、なおかつ無料開放したことで、岡山県にはISP(インターネット・サービス・プロバイダ)やIT関連産業の誘致が活発になった。それら進出企業のノウハウや情報伝達のスピードが向上したのに伴い、結果的に「ネットワーク基盤があることで、岡山県はIT化にいち早く着手できた」(斉藤正憲・岡山県企画振興部IT戦略推進室情報政策課企画調査主幹)と、IT化の要はネットワークと語る。
「IT特別経済区」を標榜する岡山県は、01年2月にIT推進戦略として「I・TOP!A-アイトピアおかやま」をまとめた。
全部で6項目からなるIT戦略プログラムの1項目は、もちろん「ネットワーク戦略」。以下、「経済活性化戦略」、「人材育成戦略」、「生活実感戦略」、「電子自治体戦略」と続き、そして岡山県を中国・四国地方の情報ネットワークの中心地に据えようという「情報首都戦略」が最後に掲げられている。
この情報首都化については、「兵庫県と鳥取県を光ファイバーで結ぶ計画で、すでに事務レベルでの協議を進めている。03年度中には接続したい」(斉藤主幹)としており、IT先進県として着々と周辺に対しても地歩を固めつつある。
隣接県とのネットワークは、「すでに瀬戸内海を渡って香川県の坂出市まで接続されている。中・四国の情報ハブ機能を岡山県がもつことで、情報の東京一極集中を避ける」(同)狙い。ネットワーク接続を計画している鳥取県および兵庫県とは、災害時の相互援助協定も結んでおり、防災面でもネットワークの有効活用を図る目的もある。
「中・四国の情報ハブ」となることで、IT関連の経済活性化を狙う。このために、IT特区を、岡山市内中心部と岡山空港に近い岡山リサーチパークに設定。そこに進出するIT関連の新規創業企業には、通信費を補助する制度や、ITベンチャー創業資金を補助する制度、IT活用ための融資制度などを充実し、創業や他地域からの誘致を促している。
しかし、ネットワーク戦略を武器にするだけではIT先進県の名折れ。電子自治体の構築でも先進性を示すことが不可欠だ。
岡山県では今年9月から、土木工事に関わる企画・設計などのコンサルタント業務のほぼ100%を電子入札に切り替えたほか、このほど土木工事業者の入札についても一部で電子化し、試行を開始した。
今後については、今夏に実証実験を行った物品調達を03年度に電子入札化。さらに、同じく03年度末には約2500種類ある届出・申請について、電子申請に対応させる考えだ。
これら電子県庁の構築にあたって、重要性を増しているのが各市町村との連係だ。各市町村とのネットワーク接続ができても、電子申請などで有効活用しなければ“宝のもち腐れ”となってしまう。だが、申請書類の書式が異なるなど、小さな問題が多いのも事実。
■市町村と協議会を設置、地域IT振興を推進
岡山県は今年3月、岡山県電子自治体推進協議会を設置した。各市町村の情報システム担当者が集まり、共同で使用するシステムの仕様統一などを検討することに加え、申請関係について細かな違いをクリアにし、書式統一を目指している。
しかし、県下78市町村それぞれを見ると、足並みが揃っていないのも現実。岡山市のように、岡山県以上にIT化を推進している市もあれば、倉敷市のように自治体システムのモデル地域のような市もある。半面、まったくIT化の進んでいない町村もある。
もともと、中央各省の補助で進められた電子化事業が入り組み、「それぞれ補助金で敷設した光ファイバー網も地域内だけにとどまり、それぞれが接続されていなかった。ネットワークがあっても、利用していない地域もある」(斉藤主幹)そうで、市町村によってIT化に対する“温度差”が大きいのがネックになっているという。さらに、市町村それぞれの財政状況も影響する。
地元のシステムインテグレータからみれば、県内全域の電子化ニーズに期待は大きいものの、冷めた見方もある。
「IT化も重要とみているが、各市町村にとっては合併問題が最重要課題だろう。岡山県が旗を振っても、反応が鈍いというのが実態だ」。こう語るのは、両備システムズの子会社で、自治体向けのアプリケーションソフトを開発、ソリューションを提供しているリオス・コーポレーションの岸俊克・公共ビジネスカンパニー副カンパニー長。
同社の場合、市町村の基幹システムは親会社の両備システムズが事業化しているため、合併に関するIT統合は事業の範囲外になるが、それでも自治体向けビジネスが期待するほど伸びていないのは大きな問題。「県の地域電子化は、合併などの問題で進んでいない。岡山市のIT化ビジネスを獲得する方が重要」(岸・リオス副カンパニー長)と見ている。
また、NEC系の岡山情報処理センターの上田泰・公共ソリューション部長も、「実際に電子化となると、岡山県内各町村のシステム要員がいないという問題がある」と指摘する。実際面で、地域のIT化は解決すべき問題が山積している。
岡山県では、情報インフラ構築の最後の仕上げとして各家庭のブロードバンド接続を課題に挙げている。
「CATV網を利用するにしても、NTTの回線を使うにしても、各家庭の接続を図らなければ、IT化の目的である住民サービス向上にはつながらない」(斉藤主幹)からだ。
とはいえ、山間地にある町村の家庭をブロードバンド接続するかどうかは難しい問題。県内町村によれば、NTTでも接続軒数が期待できなければADSL網を構築することに難色を示しているのだという。
◆地場システム販社の自治体戦略 |
両備システムズ
■自治体ビジネスの拡大図る岡山県で地元最大手の両備システムズ。三宅健夫・執行役員行政システムカンパニー事業本部長は、岡山県および県内各市町村の電子化ニーズに対して、「自治体電子化で民需の低迷をカバーできる期待はあるが、発注までの時間が長く競争も激しい」と語る。同社は県下自治体の基幹系システムの多くを手がけており、フロントシステムを担当する子会社のリオス・コーポレーションとともに自治体営業を活発化している。
しかし、e-Japan計画により全国展開を目指す大手ベンダー、システムインテグレータに圧されてきているのも事実である。
「岡山県の中では、岡山市が先進的なモデルになってさまざまな実証実験が行われたが、そこでも大手が受注し地元の出番が少なくなっている」と危機感を募らせている。
岡山県のIT化には、多くのベンダーが参加意欲を見せている。先進的な自治体で実績をつくれば、そのまま他の自治体ビジネスにも有利だからだ。
県下自治体の動向では三宅事業部長も、「自治体にとっては、電子化そのものより市町村合併の重要度の方が高い。そこで発生するビジネスも、合併が順調に行われるか、それとも土壇場でひっくり返るかというリスクについても考慮しなければならない」と難しさを強調する。
それでも、地元企業の意地を見せて、「今年度の公共関係の売上高は前年度に比べ約8%増の45億円と見ている。来年度も同様にプラスと考えている」と強気の姿勢だ。
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