大航海時代
<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第57話 ホーチミン市
2002/11/11 16:18
週刊BCN 2002年11月11日vol.965掲載
水野博之 メガチップス 取締役
しばらくベトナムのホーチミン市に居た。昔のサイゴンである。サイゴンという名前には、妙にロマンチックな香りが漂っていて、東洋と西洋との接点という感じがする。これは年寄りだけの感傷ではないようで、多くのベトナムの人たちから、懐かしい名前だという感想を聞いた。論より証拠、街のなかにはたくさん「サイゴン」という名称が残っている。ホーチミンさんは立派な人だが、街の名に個人の名をつける、というのはいささか頂きかねる。ただ、サイゴン市が解放(?)されたのを記念してつけたといわれるが、この国の政府は共産主義を信奉しているにもかかわらず、ずいぶん自由な方策をとっているように見える。ベトナム社会民主主義は、ユニークな社会主義のように見える。街の名前もあんまりこだわっていないのではないか。街を歩いてみて驚くのは、バイクの数の凄さである。何百というバイクが爆音を発して走りまわっている。こう書くと、日本でいう暴走族を思い浮かべるかもしれないが、断固として違う。この国の若者はグループで力を誇示するようなことはしない。一人一人がバイクで走りまわっているだけだ。
なかには一家四人乗っけて走りまわっている。それが右へ左へと飛燕のように動く。車の前をさっと斜めにかけ抜け、あわや、と驚くが、滅多にあわや、にならない。後ろの座席に横座りし、足を組んで、アイスクリームをスプーンですくって食べている女性なんかを見ると、よくまあ転がり落ちないものだ、と思うが、ベトナムの人は本質的に器用なのであろう。ドライバーにしがみついている人間なんてつとに見かけない。友人の米国人曰く、「ベトナム人は世界で一番器用な人種なのではないか」と。器用をもって鳴る日本人もベトナムの街ではオロオロするだけである。
(ホーチミン市・コンチネンタルホテルにて)
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