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サーバー新戦略を展開するIBM Chapter 2

2002/11/11 16:18

週刊BCN 2002年11月11日vol.965掲載

 IBMサーバー戦略はeビジネスソリューションへの最適化という観点から推進されている。同社ソウト事業を支えるのも、Websphere(ウェブスフィア)などeビジネス向けミドルウェア群である。このためIBMは、eビジネスが求めるサーバー機能を明確にしてサーバーを開発する。また、IBMが全サーバー共通OSとして採用したLinuxは同社の掲げるオープンスタンダードのフラッグシップであると同時に、次世代eビジネスの主力、ウェブサービスを展開するプラットフォームとなるグリッドコンピューティングインフラでもある。(中野英嗣)

eビジネスソリューション強化でサーバー開発

■IBM、eビジネス向けソフトが堅調

 02年1-9月IBM決算が発表された。IBM売上高は世界IT市場の縮図と考えられるので、世界IT市場規模がピークであった00年と比較すると、セグメント別市場動向を分析することができよう。

 ピーク時に比べ、グローバルサービスは7.6%増、ソフトウェアは2.7%と堅調だ。この堅調なノンハードに比べ、ハードはきわめて厳しい。

 ピーク時比で、サーバー、ストレージなどエンタープライズ製品売上高は11.1%減、パーソナル機器は25.6%減というきわめて大きな落ち込みだ(Figure7)。

 パソコンは世界市場でのデル独走によって、IBMパソコンはコンパックを買収したHPとともに、デルのカニバリズムで窮地に陥っている。 さて、エンタープライズの主力サーバーに対しIBMは決算で次のように説明する。

 「UNIXサーバーpSeries、IAサーバーxSeriesは堅調であるが、ミッドサーバーiSeriesは苦戦中である。またIBMの変わらぬ旗艦サーバー、メインフレームzSeries出荷はMIPS値ベースで前年比7%伸びた」

 現在IBMの利益をサービスと共に支えるのは、総利益率83.3%、税引前利益率20.3%というきわめて高利益のソフトウェアだ。

 IT不況のなか、マイクロソフトを除くと有力ソフトベンダーの売上高が大きく落ち込むなか、IBMソフトは堅調といえよう。ソフト売上高についてIBMは次のように説明する。

 「IBMのeビジネスソリューションを支えるアプリケーションサーバーWebSphereは前年比27%増、データベースDB2は2%増となった。IBMはeビジネス向けソフト強化のためIBM製品を補完するソフト会社を買収し、この戦略は今後も継続する」

 こうしてみると、IBMはサーバー、好調ミドルウェアともにeビジネス向けソリューションを重点市場としている。

 IBM旗艦メインフレームも既にはeビジネスサーバーへ転換しつつあるといえよう。02年IBMメインフレームのeビジネスソリューション構成比は25%まで急伸しているからだ(Figure8)。

■eビジネスがサーバー技術へプレッシャーを

 IBMはeビジネスが与える市場プレッシャーがIBMサーバー技術を育むと説明する。IBMの考えるサーバーへのプレッシャーは、(1)ビジネス効率、(2)ビジネス継続性、(3)オープン化指向、(4)技術置換である(Figure9)。

 ビジネス効率化ではビジネスプロセスの統合、TCO(所有総コスト)削減、所有IT資産有効利用だ。また、eビジネスではいかなる事態が発生しても24時間365日ビジネスが継続されなければならない。

 このためサーバーの高信頼性に支えられる可用性(アベイラビリティ)、パフォーマンス向上、セキュリティ確保に加え、災害やテロ発生時のディザスタリカバリーがビジネス継続では重要となる。

 9.11同時多発テロ以降、米国企業はIT予算縮小でもディザスタリカバリーには大きな予算を投入している。

 さらにIBMはオープン化指向のシンボルとして、eServer共通OSとしてLinuxを採用している。

 さらに技術置換でIBMはサーバーの仮想化技術によって、1台のサーバー内部を複数区画(パーティション)に分割し、これに既設複数サーバーを統合してTCOを削減するサーバーコンソリデーションを推進している。

 そしてIBMがサーバー技術置換で次世代に期待するのがクラスタ化を極限まで追求するグリッドコンピューティングだ。

 IBMは次世代主力eビジネスのWebサービスはグリッドインフラ上で展開されると説明する。IBMはeビジネスインフラとしてネットワーク、ミドウェア、ストレージ、高品質サービスをあげる(Figure10)。

 さらにIBMはeビジネスサーバーではディレクトリ、セキュリティ、Webアプリケーションなどフロントエンド用と、トランザクション、データベースなどバックエンド用途は明確に分かれることを強調する。

■着実に実績が積み上がるLinux

 IBMは世界有力サーバーメーカーでは最もLinux戦略を明確にし、その開発に注力し、eServer全モデルでLinux環境は整った。

 このうちxSeries、pSeriesではネイティブLinuxが準備され、メインフレームzSeriesでは他のOSを搭載しないピュアLinuxモデルも人気が高い。

 ミッドサーバーiSeriesだけは独自OS「OS/400」をプライマリーOSとして、各パーティションでLinuxとUNIXの混合OS「AIX 5L」も利用できる。これはiSeries、pSeriesだけでなくIA-64バージョンも開発された。

 IBMはLinuxサーバーの各パーティションで多数のサーバーを吸収するサーバーコンソリデーションで大きな成果をあげている。

 IBMはユーザーのLinuxへの評価も高まっていると報告する(Figure12)。 IBMによると、とくにユーザーがLinuxを高く評価するのはコスト効率、信頼性、パフォーマンスだ。

 さらにIBMはLinuxアプリケーションも大きく変化してきたという。00年の主力用途はファイアウォール、プリント/ファイル、Webサーバーなど単純な利用で、01年には早くもクラスタリング、コンソリデーション、eコマースなどエンタープライズアプリケーション分野に普及したと説明する(Figure12)。

 02年以降、Linuxは商用クラスタへと用途が広がり、Linuxは商用グリッドコンピューティングの基幹OSになると説明する。これで00年秋IBMが全サーバー共通OSとしてLinuxを採用した究極の狙いがグリッドインフラ構築であったことが明確になった。

 IBMは、集中処理から分散処理へと変化してきた企業コンピュータ次世代の姿はグリッドコンピューティングであることを強調する。こうした意味からIBMはLinuxに次世代ITインフラという重要な役割を与えたと考えられる。
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