e-Japan最前線

<e-Japan最前線>19.総務省、条例素案を公表

2002/11/11 16:18

週刊BCN 2002年11月11日vol.965掲載

 来年8月以降、各市町村から希望する住民に交付される予定のICカード「住民基本台帳カード(住基カード)」に関する利用条例の素案がまとまり、各自治体に対する意見募集が行われた。素案では、各市町村が独自に定めた利用アプリケーションを搭載できることが示されている。これによって、住基カードが行政サービスに幅広く活用されることになりそうだ。住基カードの発行は、カード発行者である市町村が独自に利用条例を制定する必要があり、今回の素案は条例のタタキ台として総務省がまとめた。

住基カードの使い勝手が向上

 9月下旬から約1か月間、意見募集が行われ、それを踏まえて年内には条例のひな型をまとめる予定だ。「9月に開催されたICカードフェアで、神奈川県大和市の土屋(侯保)市長が『独自に発行している大和市の市民カードと住基カードを市民に選んでもらう』と発言していたが、今回の素案で考え方を変えるかもしれませんよ」(大山永昭・東京工業大学教授)。素案で明確になった最大のポイントは、具体的な事例を示しながら、広範囲な行政サービスのアプリケーションを住基カードに搭載できることを示した部分だろう。

 これまで市町村が住基カードに対してもっていた懸念は、利用アプリケーションが限定され、使い勝手が悪いのではないかという点だった。総務省が住基カードのプロジェクトを開始したあとに、経済産業省でもICカードに関するプロジェクト「IT装備都市研究事業」をスタートさせた。大和市でも、IT装備都市事業の一環で今年春にICカードを人口約21万人に対して約9万枚を配布し、住民票や印鑑証明書の発行だけでなく、地域振興のための地域通貨機能も搭載してサービスを開始している。

 こうした地域通貨といったアプリケーションを住基カードに搭載するのは難しいとの見方が強かった。「住基カードは、もともとマルチアプリケーションに対応できるように開発を進めてきた。市町村において、住基カードの利用方法を検討する際のタタキ台として、さまざまな行政サービスの利用方法の例を示すこととした。市町村においては、IT装備都市研究事業の成果を活用することも可能とした」(総務省自治行政局市町村課・馬返秀明課長補佐)。

 住基カードに、IT装備都市研究事業によって全国21地域でスタートしているICカードサービスも取り込めるようにしたことで、公的カードを一本化しやすくなったというわけだ。住基ネットサービス以外に、住基カードに搭載される他のアプリケーションは、それぞれアプリケーション間のファイアウォールが設けられて完全に独立する形となる。住基ネットサービス以外のアプリケーションでは、カード側にはサービスにアクセスするためのアクセスキーだけを搭載し、個人情報そのものをカードに書き込まないのが原則だ。

 住基カードそのものの交付は、住民が希望した場合に発行するサービスとなる。また、住基カードに住基ネットサービス以外のどのアプリケーションを載せるかどうかも、住民それぞれが選択する形となる。一方で、地方自治体にとっては、住基カード向けにどんなアプリケーションを用意するかがこれからの大きな課題となる。「ある自治体では、災害時における避難所の避難者情報を迅速・正確に把握するのにICカードを利用することを検討しているようだ」(馬返課長補佐)。住基カードを使って、各地方自治体が行政サービスの向上をどのように図っていくのか。これからが勝負である。(ジャーナリスト 千葉利宏)
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