コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第2回 プロローグ (下)
2002/11/11 16:04
週刊BCN 2002年11月11日vol.965掲載
市町村合併とシステム共同化がキーワード
■合併検討は1203市町村総務省によれば今年10月1日段階で、合併を検討している市町村数は1203か所で、7月1日時点に比べて約30%増えた。これらの自治体は、合併を検討する法定協議会もしくは任意協議会に参加している。
このうち、合併に向け具体的な話し合いを進めるための法定協議会を設置している市町村は519か所で、同じく30%程度増加している。研究会まで含めれば構成市町村数は2647にまで膨れ上がる。自治体関係者によれば、「合併に必要な期間は最低でも1年」といい、2005年3月末をターゲットに任意協が法定協に格上げする数はさらに増加する。
市町村合併は、IT化を加速するチャンスでもある。だが実際には、「計画としてはIT統合が話には出る。しかし、それより行政面での調整が難航し時間がかかり、ITに関しては後回しになる」(室直之・日本電子計算取締役公共システム事業部長)というのが現実のようだ。
この点についてはNECの丸山康隆・e-ガバメントソリューション推進本部事業推進部長も同様で、「市町村合併という大きな問題が、電子自治体構築と並行して進んでいる。どうしてもIT化というのは最優先の課題とはならない」と語る。
■システム統合が大きな課題
政府の施策では、住民サービスの充実と向上、自治体運営の効率化のための市町村合併でありIT化であるという位置付け。これらは車の両輪のように回転しなければならない。市町村合併から見た場合のコンピュータシステムの統合は、合併する各市町村がもつ住民基本台帳などの基幹系システムと、住民窓口などの情報系システムの統合がある。
基幹系システムはメインフレームやオフコンで構成されているケースが多く、このレガシー・システムをどのように統合するかは技術的にも大きな課題となる。
これまでの例では、東京都西部の保谷市と田無市が合併してできた西東京市は、合併前の両市がともに富士通のメインフレームを使用していた、という共通点はあるものの、その上で構築したソフトの中身はそれぞれが長年にわたってカスタマイズしてきたため、ほとんど共通性がなかったという。
そのため、当初は両市がそれぞれ使用していたシステムを継続使用し、システムをリース更新したときに新マシンの30%を旧市のシステムに割り当て、残りで新市システムを構築し、徐々に移行させるという時間のかかる作業を行った。
11月1日、茨城県つくば市に茎崎町が編入合併した。この場合、茎崎町のシステム化が遅れていたことと編入合併であったため、つくば市のシステムに茎崎町のデータを移したことでIT統合作業は順調に進んだ。
来年4月1日に山梨県西部の櫛形町、白根町など6町村が合併し、「南アルプス市」が発足する。新市発足に向けてNECなどが中心となって、IT統合を進めている。もともと白根町にあったNEC系のシステムをベースに、新市のシステムを稼動させる方針で、今年6月から実際の作業がスタートした。
この南アルプス市のような例はむしろ少ないというのが実態だ。施設予約システムなど住民サービス系のフロント部分のシステム共同運用でも、各自治体の思惑が入り交じり、システム構築まで順調に進んでいるケースは多くはない。
■「共同運用」の動き高まる
ここにきてIT化のキーワードとして表面化してきたのが、「共同運用」。東京都は今年から都下の区市町村を対象に、電子申請・調達を行うための電子自治体共同運用システムの検討を開始した。5月13日に東京都の全区市町村のIT担当者を集め、第1回の都区市町村電子自治体共同運営協議会準備会を開催。10月までに計4回の会議を行った。
すでにインターネットを通じて、システムインテグレータやシステムベンダーからの共同システム構築に関する提案を受け付けており、その一部、公開を承諾した提案についてはホームページ上で見ることができる。
当初の準備会開催段階から、「早期に準備会という名称を外し、具体的な協議を行っていく」(東京都総務局IT推進室)としており、提案の内容を含めすでに実質的には具体化の検討を推進している。こうした例は東京都だけにとどまらず、全国各地で進められつつある。
「共同化を切り口に、ITをトータルシステムとして提案していく。それには共同利用センターというファシリティ構築から自治体職員のパソコン1人1台体制まで、あらゆる角度からシステム構築を支援していく体制を作る」(NEC・丸山事業推進部長)と、ベンダーでもIDC(インターネットデータセンター)などとの共同化に対応していく考えだ。共同化は、足並みの揃わない電子自治体構築を平準化できる期待がある。
■カギは「リーダーの存在」
自治体のIT化や合併にともなうIT化を順調に進ませる最大の要因は「リーダー」の存在であるということは、システムベンダーやコンサルタントの多くが指摘する点だ。自治体のIT化の進行や先進性を決定するそのリーダーの有無が、各地域の温度差を生んでいるといっても過言ではないだろう。
岐阜県の梶原拓知事、三重県の北川正恭知事のように、IT先進県にはそれを強力に引っ張るリーダーがいることがIT先進自治体を生む大きな要因になっている。
そうした人材がいない自治体には、ベンダーやシステムインテグレータがIT化を強力に支援し推し進めていく必要があるだろう。
合併やシステムの共同運営という動きが広がる状況では、自治体ユーザー開拓とともに、既存のユーザーを確保することもシェアを落とさないために不可欠。これまで100自治体に近い基幹システムユーザーをもつ日本電子計算でも、「大都市圏とその近隣を中心にユーザーを獲得してきた。合併やITの共同運営という動きのなかで、既存ユーザーの実績だけでは生き残れない」(日本電子計算・室取締役)と危機感がある。
既存のベンダーやシステムインテグレータだけでなく、自治体マーケットを狙った新規参入企業も出ているためだ。
BCNでは、市町村合併やITの共同運用といった自治体IT市場の実態と、自治体それぞれのIT化に対する考え方、その実際を検証するため、自治体に直接足を運ぶことにした。次回、まずは岡山県のIT化構想をリポートし、さらに市民へのIT普及を進めながら電子自治体構築を他に先んじて進めている岡山市の最新情勢を連続して報告する。
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