OVER VIEW
<OVER VIEW>サーバー新戦略を展開するIBM Chapter 1
2002/11/04 16:18
週刊BCN 2002年11月04日vol.964掲載
オープンスタンダードでカニバリズムに勝利
■サーバー市場での失地回復を狙う世界IT産業の巨人IBM決算数字は、IT世界市場の縮尺図と考えることができる。IBM決算数字を分析すると、世界IT市場トレンドが読み取れるからだ。01年12月決算IBM売上高859億ドル(10兆7000億円)を支えるのは、サーバー、ストレージなどのエンタープライズシステムと、このITインフラ上に展開されるITサービスである。
既にITサービス売上高はIBM全売上高の44%、これに対しエンタープライズ製品は17%に過ぎず、ハードからノンハード重点へ移行したIBM戦略成果をこの数字が明確に物語る。
さらに98年から01年までサービス売上高伸長率は19%であるのに対し、エンタープライズ製品利益は逆に38%も減少している。ソフトやITサービスなどノンハード重点へ戦略転換したIBMも、そのインフラとなるエンタープライズ製品が不振のまま放置するわけにはいかない。この分野のシェアが下がれば、ノンハード事業も当然後向きの影響を受けてしまうからだ。
また世界のサーバー市場シェアで、出荷金額ではIBMがコンパックを買収したヒューレット・パッカード(HP)を僅か0.1ポイント上回って第1位を確保するが、出荷台数ではHP・コンパック、デルの後塵を拝している有様だ。
これはローエンドインテルIA-32サーバーの出荷台数が世界的にもきわめて多いからだ。しかもIT不況もあって、02年1-6月世界サーバー出荷金額は台数が横ばいにもかかわらず24%も減っている。これはサーバーの価格破壊がパソコン以上に激しいことを物語っている。
IBMはこのような苦戦が続くサーバー失地回復を急がなければならない。00年以来IBMは従来では考えられない思い切ったサーバー戦略を展開し始めた。全サーバー共通OSとしてLinuxを採用し、サーバーを無停止で運用する自動治癒機能開発などを含むプロジェクト「eLiza(イライザ=電子トカゲ)」を開始し、IBMは人体のようなオートノミック(自律的)コンピューティングを開発することを発表した。
02年10月、IBMはニューヨーク郊外にあるワトソン研究所、ポケプシー工場へ世界ITアナリストを集め、これからの自社サーバー戦略を公開した。
■3つのベクトルで説明される次世代サーバートレンド
IBMの現行サーバーファミリーはローエンドのインテルIA32/64サーバーxSeries、ミッドサーバーiSeries、UNIXサーバーpSeries、そしてメインフレームのエンタープライズサーバーzSeriesから構成されるが、IBMは今後これにSAN(ストレージ・エリア・ネットワーク)、NAS(ネットワーク・アタッチド・ストレージ)などネットワーク型ストレージもサーバーファミリーに加えられることを示唆した。
IBMはこれからのサーバートレンドは、(1)大規模モジェラーSMP、(2)ブレーデッドサーバー、(3)バーチャリゼーションの3ベクトルで表現されると説明する。
eビジネスのインフラとなったサーバーに関して、ユーザーは高いアベイラビリティ、ミックスドOSサポートなどを要請する。結果的にIBMは3ベクトルで総合的サーバーバーチャリゼーションを実現すると説明する。
とくに、バーチャリゼーションでは1台のサーバーを多数のパーティション(区画)に分割し、それぞれが独立した仮想サーバーとして稼働するサーバーシェアリングとこれによるサーバーコンソリデーション(サーバー統合)が重要なことを強調する。
IBMのサーバー戦略の究極的な狙いは、多数の分散設置されたサーバー群を結合し、それぞれの余剰パフォーマンスを供給し合うビジネス・コマーシャル・グリッド・コンピューティングを構築し、その上で従量制料金のユーティリティコンピューティングを実現することだ。このサービスをIBMは「eビジネス・オン・デマンド」と名付け、そのサービスの一部を開始している。
またIBMは世界サーバー出荷台数の80%以上を占めるIAサーバーの機能強化で他社に先行することを計画している。
IBMは16WAY-32WAYという大型IAサーバーを実現する自社仕様を「エンタープライズXアーキテクチャ(EXA)」と呼び、製品の一部を出荷している。わが国でも発売されている「xSeries440」は、これまでUNIXサーバーやメインフレームで実現しているERP、CRMなどミッションクリティカルに対応できるスケーラビリティ、アベイラビリティ、システムマネジメント機能を備える。
■IBMが標榜するオープンスタンダード
90年代以前のオンラインシステムと異なり、90年代にはインターネット普及により、この上でビジネスプロセスを実現するeビジネスがIT産業に大きな影響を及ぼしたことをIBMは示す。
IBMがこのビジネス手法を「eビジネス」と呼び始めたのは97年であった。インターネットもTCP/IPという標準プロトコルによるネットワーキングにはじまって、HTML、HTTP、ブラウザの出現によりインターネットはコミュニケーションツールとなり、そして現在はデータ転送も標準化されてインフォメーションツールのワールドワイドウェブ時代となった。
そしてIBMは次のインターネットの主力利用分野が、ユーザー要求によってプロセッシングパワーを自由自在にしかもリアルタイムに拡張・縮小できるオン・デマンド・コンピューティングであることを示唆する。これを実現するITインフラがグリッドコンピューティングである。
60年代にメインフレーム出現とともに誕生したセントラライズドプロセッシングは、パソコンの出現でクライアント/サーバーのディストリビューテッドプロセッシングへと移り、これが今後グリッドへ移行するとIBMは主張する。
このグリッド基盤となるサーバーで再度IBMが主導権を取り戻すのが同社サーバー戦略の究極的狙いだ。それには1社独自のプロプライエタリなアーキテクチャを排除し、Linuxを代表とするオープンスタンダード技術をサーバー上に凝縮するのがIBMサーバーの技術戦略である。
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