コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第1回 プロローグ (上)

2002/11/04 16:04

週刊BCN 2002年11月04日vol.964掲載

 行政ネットワーク構築と自治体のIT化が本格的に始まった。それとともに、全国3000の自治体を1000に減らすための市町村合併への取り組みも深度を増している。地方自治行政の「変革の波」は、国民の生活をも変えようとしている。住民基本台帳ネットワークの稼動、電子投票、住民サービスのIT化…。産業構造に変革をもたらしたITの普及は、行政をどう変えていくのか。「コンピュータ流通の光と影 PART VIII」では動き始めた地方の最先端シーンを追い、IT国家建設への道のりを検証する。

地方のIT化は進んでいるか!

 今年7月。地方自治情報センター(LASDEC)は、都道府県を対象に「市町村等のフロントオフィス業務・バックオフィス業務の共同アウトソーシングに関する調査研究」を目的として、モデルシステムの企画・設計の公募を実施した。

 当初計画では、10億円の予算に対して20か所の自治体を予定。総務省は自治体名を公表していないが、実際には30以上の自治体が応募し、これらすべてを補助金事業の対象とした。当初予定なら1自治体あたり5000万円となる補助金が、件数が増えたことで自治体に配分される補助金は3000万円強に減額されることになってしまった。

 これまで電子申請・受付や電子認証基盤の仕様・手続きなど、フロント側については政府主導で、積極的に標準化を打ち出してきた。これに対して、今回の補助金交付は「バックオフィス業務」に踏み込んだ点が特徴といえる。

 「民間企業ではERP(統合基幹業務ソフトウェア)導入が進んでいる。自治体業務効率の改善にもERPの発想が必要」(総務省地域情報政策担当)とし、IT化の一環として庁内業務改革も補助金の対象としたわけだ。

 そして最大のポイントは、フロントオフィス業務およびバックオフィス業務ともに複数市区町村との共同アウトソーシングを基盤としたことだろう。

 これまで、それぞれで検討されてきた県および市町村のIT化が、アウトソーシング、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)の活用を掲げたことで、共同化あるいは緊密なネットワーク構築へと大きく前進することになる。

 「e-Japan重点計画」の推進により、自治体も急速なIT化を目指してきた。しかし、一方で、窓口業務や庁内業務はそれぞれ電子化が図られてきたものの、フロントとバックオフィスの連係や他自治体とのネット構築は、計画はあっても遅々として進まなかったのが実情だ。

 この状態が最近まで続いたことを、自治体ドットコムを運営するクロスカルチャーの加藤晴彦社長は、「自治体職員の意識の欠如」と切り捨てる。

 また、自治体専門のソリューション提供を目指して昨年10月にアルゴ21、アイエックス・ナレッジなど中堅システムインテグレータが共同出資で設立したCDCソリューションズの角坂裕社長も、「ほんの一握りの先進的な自治体職員だけがIT化の重要性を認識していただけ」と取り組みの遅れを指摘する。

 2005年を目指し、電子政府構築が進められ法整備も行われているなかで、足並みの乱れはあるものの、自治体もようやくIT化に取り組む意欲を見せ始めた。LASDECの公募に、予定数以上の応募があったことはそれを裏付ける。

 自治体のIT化を狙うコンピュータベンダー、システムインテグレータにとっても都道府県レベルから末端の市町村まで「電子自治体」構築に腰を上げ始めたことで、いよいよ競争が本格化する。

 大手ベンダー、システムインテグレータにとってはシェア争いが、そして各地方のシステムインテグレータや旧弊な「電子計算センター」にとっては生き残りを賭けて「自治体向け業務」を死守する戦いの幕が開く。景気低迷が続くなか、05年の電子政府・電子自治体構築に向けたニーズは巨大であり、短気決戦が求められる。

 BCNでは、自治体のIT化の進捗や問題点を指摘していくと同時に、ベンダーおよび地域システムインテグレータの競争を、e-Japanという壮大なプロジェクトの歴史の証人として見つめていく。
  • 1