e-Japan最前線

<e-Japan最前線>13.統合型GISの最新事情(下)

2002/09/30 16:18

週刊BCN 2002年09月30日vol.959掲載

地図をベースに情報共有(三重県)


 今年8月、三重県が県全体を網羅する地理情報システム「三重県GIS」のインターネット公開を開始した。都道府県レベルでGIS公開は三重県が初めてとなるだけに、キックオフ当日には片山虎之助総務大臣を招いてシンポジウム「e-Japan戦略の目指す地域づくり」を開催するなど、GISにかける三重県の意気込みが伝わってくる。GISの構築はこれまで市町村レベルの動きが先行していた。今年3月からインターネット公開を開始した神奈川県横須賀市や千葉県浦安市、三重県でも鈴鹿市などがGIS情報の公開に踏み切っている。GISのベースとなる都市計画図を作成・管理しているのは市町村であり、都道府県で直接管理している地図は多くはないからだ。

 しかし、都道府県が地図上で管理・保有している情報は質・量ともに膨大だ。「現在、GIS上で公開している行政コンテンツは、観光情報、公園、医療施設、文化財など70ジャンル、1万3000件以上に達しているが、まだまだ多くの情報が眠っており、出せるものはどんどん出す」(地域振興部・小林哲也氏)。住民への情報公開という大きな流れに対応していく必要もある。

 三重県では、独自に縮尺5000分の1のオリジナル電子地図を作成した。平野部分は各市町村から2500分の1の都市計画図を提供してもらい、県全体の7割を占める山林部を加えて、全体をまとめ上げた。「市町村によって都市計画図のメンテナンス状況などバラツキはあったが、あとから修正すればよい。まずは、コンテンツを流通できる基盤を整備することが重要」(小林氏)という考えからだ。全県域をカバーするGISシステムは三重県が最初となるが、5000分の1が今後、都道府県ベースでGISを整備していく上での標準的な縮尺となっていく可能性もあるだろう。

 三重県は、地方自治を推進していくうえで民間発想に近い「地域経営マネジメント」という考え方を打ち出している。GISは、その地域経営マネジメントの基幹データベースのひとつという位置づけだ。GISの利用も、大きく4つの分野で進めていく。第1に生活者の利便性向上のために病院や図書館などの各種生活情報を提供する。第2に、産業の活性化を図るために企業に法令制限地域情報や誘致情報などを提供する。第3に、地域の活性化のためにNPO(非営利団体)活動、ボランティア活動の情報交換やイベント会場情報の発信などに利用する。そして、最後にGISを使って行政のBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を積極的に推進する。

 三重県では、8月のインターネット公開に先駆けて、今年4月にGISの活用を通じてBPRを推進していくための7つのチームを組織した。公共事業やライフラインなどの分野ごとに、GISを活用してBPRをどのように推進していくかという課題に取り組んでいる。そこに、地域経営マネジメントという発想がますます重要になってくる。しかし、GISによるBPRは一朝一夕に達成できる課題ではない。具体的な事例を紹介しよう。国土交通省では、昨年から工事竣工図面などの電子納品制度をスタートした。デジタル化された道路工事の竣工図面などを、GISの基礎情報のひとつとなっている道路台帳図面などにそのまま利用できれば、地図が自動的にメンテナンスされる仕組みが整うはずだった。

 ところが「電子納品された竣工図面は、道路GISには使い物にならないことがわかった。解決するには、工事の管理方法から全面的に見直す必要があり、見直し作業にはこれからかなりの時間を要するだろう」(国土交通省幹部)という。電子納品の問題は、ある意味で象徴的な事例ではある。しかし、こうした課題を含めてGISの視点から地域経営のBPRをどこまで推進できるのか。三重県の挑戦が大いに注目される。(ジャーナリスト 千葉利宏)
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