WORLD TREND WATCH
<WORLD TREND WATCH>第119回 IBM、PwCC買収
2002/09/02 16:04
週刊BCN 2002年09月02日vol.955掲載
究極のITサービス力を
米大企業はIBMのプライスウォータハウスクーパース・コンサルティング(PwCC)買収をきわめて前向きに受け止めている。とくにIBMグローバルサービス(IBM GS)とPwCCは同じITサービスでもアプローチ方法が大きく異なるからだ。IBMはITインフラ構築力が強く、一方PwCCは業務改革コンサルティング、新ビジネスソリューションに強い。このタイプの異なる2つのITサービス統合は、IBMサム・パルミザーノCEOが狙う「究極のITサービス力」確立に大きく貢献するというのが多くの米ITアナリストの見解だ。
PwCCのコンサルティング力統合によって、IBM GSはエンタープライズITサービスでの「ワンストップ・ショップ化」に成功するという見方だ。PwCCはとくに化学・薬品、自動車、金融、大型リテールでのERP、SCMシステム構築実績が高く、優れた業種特化サービス力を備えている。また、これまでのビジネス展開の手法にも両社は大きな差異がある。IBMは当然エンタープライズのCIOレベルからのアプローチ力が強く、PwCCは経営企画や財務からのビジネスアプローチを展開してきた。
しかしエンロン破綻に絡んだ会計監査アンダーセンの不正行為発覚を契機に「会計監査系コンサルタントにIT構築は委託しない」という方針を多くの米エンタープライズが打ち出し、PwCCもその身の振り方に苦悩していた。このため同社は00年秋に買収話をもちかけたHPにも再度、買収を打診したようだ。しかしHPはすべての第3者ITサービス会社と等距離を保つことがカーリー・フィオリーナCEOの方針だとして、PwCCとの話し合いを拒否した。そこにIBMが買収をもちかけたため、一気に話が決着した。
IBMはPwCCを買収したように、自社でのITサービス力強化を打ち出している。一方HPは、マイクロソフトやアプリケーションサーバーのBEAとの提携にも見られるように、パートナーシップによるITサービス強化を戦略とする。また、IBMは世界のITサービスでEDSから激しく追い上げられている。02年4-6月、IBM GS売上高は前年同期比0.9%減となった。一方EDSは景気に左右されない世界の官庁需要に強いため、同時期は7.5%の増収でIBMパルミザーノCEOの顔を曇らせている。
EDSの追い上げを阻止するためにもIBMは、アプローチ手法の異なるITサービス会社が必要であった。またPwCCの既存クライアントにはサン、HP、デルのエンタープライズユーザーも多く、いずれIBMによるリプレースの可能性も高い。しかし、買収後これらユーザーでどのように自社文化との親和性を醸成するかという難題もIBMは抱えることになる。IBMは02年9月末までの買収手続き完了を計画し、PwCCからの転籍3万人を受け入れるため、IBM GSのITコンサルティングで不要な要員の大幅削減という荒療治を開始した。(中野英嗣●文)
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