e-Japan最前線
<e-Japan最前線>7.住基ネット
2002/08/12 16:18
週刊BCN 2002年08月12日vol.953掲載
まずはシステムの安定を
この1か月間、住基ネットに対してさまざまな情報が飛び交った。「現状では住民の個人情報保護を確保できない」と、福島県矢祭町を最初に住基ネットから離脱する地方自治体が出るなどの混乱も続いている。
運用開始を機に、改めて住基ネットをめぐる議論を整理する必要があるだろう。住基ネットとは何か。総務省の資料によると「各種行政の基礎であり居住関係を公証する住民基本台帳(システム)のネットワーク化を図り、(中略)、地方公共団体共同のシステムとして全国共通の本人確認ができる仕組みを構築する」とある。住民情報を管理している住民基本台帳システムを専用回線で結んだものではあるが、本人確認を全国で行えるようにするネットワークという位置づけだ。
住基ネットを考えるうえで最も重要なポイントは、ネットワーク上での「本人確認」という論点だろう。ネットワーク社会のセキュリティを確保するためには、他人への“なりすまし”を防止する「本人確認」が不可欠だ。現在でも頻繁に運転免許証や健康保険証などの公的証明書の提示を求められるのと同様に、ネットワーク上では電子署名&認証が必要になる。
先の国会で継続審議となったオンライン関連3法案が成立すれば、住基ネットを利用した公的個人認証の仕組みが動き出すことになる。もし、住基ネットを利用せずに、ネットワーク上での本人確認機能を実現しようとすれば、運転免許証といったタダ同然の手段ではなく、かなり高額な負担を民間企業も消費者も支払うことになるだろう。もちろん、ネット上での本人確認サービスを不要とする国民も現時点では多い。「住民票なんて滅多に取りにいかないよ」という声も聞かれるが、人の顔が見えないネットワーク社会では本人確認のニーズがこれまで以上に頻繁に行われるようになる可能性は高く、インターネットを利用するうえで不可欠なインフラとなることは間違いない。
それだけに、住基ネットの運用では、セキュリティ対策などのシステムの信頼性確保は絶対条件である。しかし、運用を開始してすぐに、入力ミスなどの初歩的な問題も相次ぎ、システム面で不安を指摘する声も少なくない。運用面ではセキュリティ対策の基本であるリスク分析が不十分で、責任の所在があいまいとの指摘もある。数年前に京都府宇治市で住民基本台帳システムから住民情報が流出した事件では損害賠償が認められている。セキュリティ対策の弱い自治体のシステムを経由して情報が流出した場合の責任は誰が負うのかといった疑問を指摘する声もある。
「住基ネットの運用が遅れると、e-Japan計画全体のスケジュールに影響が及ぶことも懸念される。一刻も早くシステムの安定化を図るよう万全を期するべき」(識者)と意見もある。総務省では、外部による監査も行うなど信頼性確保に向けた取り組みを進めており、より適切で安全な運用の実現に向けて努力している。今後、ネットワーク社会のインフラとなる住基ネットを有効活用していくための議論を本格化させていくためにも、まず土台をキッチリ固めことが最優先だろう。(千葉利宏)
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