WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第113回 北米全域のWLAN

2002/07/15 16:04

週刊BCN 2002年07月15日vol.949掲載

 02年も米IT市場の回復気運は鈍い。さらに米ICT(情報通信)業界では、ネット携帯電話、光ファイバー網などの普及で米国が日本に大きく遅れることの懸念が強まっている。米国では02年秋からNTTドコモ技術によるAT&Tワイヤレスの本格的ネット携帯電話サービスが始まる段階で、米国にはわが国のように全家庭へ光網を普及させるFTTH(ファイバー・ツー・ザ・ホーム)計画もない。

IBMのホットスポット構想

 IBM、マイクロソフトなど有力IT企業はブロードバンド普及を政策として採り上げることをブッシュ政権に提言しているが、米政府の反応は鈍い。そこでIBMは、ネット携帯電話に代わるインフラとして、IEEE802.11xベースのWLAN(ワイヤレスLAN)アクセスポイントを北米全域に普及させる計画を検討し始めた。IBMは調査会社のパイオニアコンサルティングと共同で、「3Gモバイルデータネットワークの代替インフラ」を副題とする「北米全域のワイヤレスインターネットアクセス拠点構想」を発表した。当構想によると、02年春時点で北米WLANホットスポットは5000か所で、08年には15万1000か所まで増える。

 IBMグローバルサービス部門のワイヤレスサービス副社長ダン・ペイプ氏は、「WLANホットスポット普及はIBMサービスに巨大新市場をもたらす。IBMはホットスポットを北米全域に普及させることを促進したい」と語る。同副社長は続けて同社の期待を次のように述べる。「米ITメーカーはホットスポットを北米全域で増やし、これをITサービスの強力な基盤に育成するため北米全域でネットワーク統合し、信頼性高いネットワークプラットフォームに発展させなければならない。このようにWLAN拠点を全域で統合管理できることで、この上でのVoIPとデータネットの市場は無限に広がる。米通信サービスがこの環境整備を怠ることは、米国の経済競争力強化の観点からも許されないことである」。IBMは01年5月、世界に先駆けて「ワイヤレス/モバイル総合ソリューション」を発表し、極めて短時間にホットスポットを設置できる「インスタントWLANパッケージ」も発売した。

 これによって発売1年後には北米4000社のIBMユーザーが企業内ホットスポットを開設した。しかし、北米全域にわたってホットスポットを効率的に管理するような通信業界のサービスは出現せず、IBMはこれを懸念していた。現在米国にはWLANホットスポットをまとめてローミングサービスを行う企業も存在するが、いずれも規模が小さく、北米全域サービスは難しい。IBMのペイプ副社長は、次のように語った。「多くの企業ユーザーは自社内ホットスポット利用に満足している。しかし多くのユーザーも北米全域でのWLAN統合管理が企業eビジネス発展につながると考えている」(中野英嗣●文)

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