人材流動化の時代

<人材流動化の時代>第3回 新しい起業家になれるか

2002/07/15 16:04

週刊BCN 2002年07月15日vol.949掲載

 

 国際化といえば、IT産業はそれがもっとも進んでいる産業である。外資系と呼ばれる企業が多数存在し、そこでは人材はまさに流動している。

 会うたびに名詞が違う、といえばいささかオーバーだが、会社を移ることに対して、国産メーカーとは全く違う価値観、慣習が定着していることは確かだろう。

 米国では、会社を移ることはステータスを高めるために必須のコースだとよく言われる。日本の外資系企業にもそのような雰囲気はある。

 例えば、ベンチャー系企業の日本法人社長に出身企業を聞くと、IBM、アップル、コンパックなどの名前が頻出する。

 こうした大企業が人材輩出の母体として機能、彼らがそれなりの能力をもっていることが、IT産業でこれだけ外資系企業が活躍できる大きな背景のひとつとなっている。

 数年前、ITバブル真っ盛りのころ、ベンチャーブームも同時に起こっていた。多少、血の気の多い若者が相次いで会社を立ち上げ、資本も集まった。

 結果論として、多くのベンチャーは消えていったが、もし、あのようなベンチャーに、より確かな経営観、技術観をもった経験者が参画していたらどうなっていただろうか。もう少し、生き残れる企業が多かったのではないか。

 日本にはベンチャーを育てる風土がない、とよく言われる。しかし、本当にそうなのだろうか。

 日本の産業を底辺で支えているのは、中小零細企業である。中小零細企業の社長は、いまでいうベンチャーであろう。

 製造業の場合、こうした中小零細企業は、下請けとして大手企業の系列下に組み込まれることで生きてきたという側面が強い。しかし創業者自身は相当な覚悟とベンチャー魂をもって会社を立ち上げているはずである。

 そうしたベンチャー魂があっても、下請け、系列化という形でしか生き残れないこと、それが日本が長い不況から脱し切れない大きな原因のひとつような気がする。

 今回の大手企業の大リストラで流出した人材の何割かは、起業の方向に向かうのではないか。そうした人たちが新しいベンチャーの旗手として活躍できれば、日本のIT産業、さらには日本経済は活性化の方向に向かうだろう。(石井成樹)
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