攻防! コンテンツ流通

<攻防! コンテンツ流通>12(最終回).相互理解を進め健全な流通を

2002/06/24 16:04

週刊BCN 2002年06月24日vol.946掲載

 インターネットを使ったコンテンツ流通では、①制作・権利者、②編集・配信事業者、③通信事業者、④周辺ミドルウェアの開発――などの分野で、新しい企業やサービスが次々と登場している。技術的にも日々発展しており、今後、まだまだ大きく変わる分野だ。

 ただし、利用者同士によるコンテンツファイルの交換など、制作・権利者の利益を脅かす動きも表面化し、順風満帆で進んでいるわけではない。

 この連載期間中、利用者同士によるファイル交換でコンテンツが独自に流通するファイルローグ(日本MMO=松田道人社長が運営)が問題となり、日本レコード協会や音楽著作権協会などが訴訟を起こした。現在も係争中である。

 リアルの店舗網を使ったコンテンツ流通でも、大きな変化が起こった。中古ゲームソフトの販売を最高裁が認めたことだ。こちらも、この連載の期間中に、最高裁が判決を下し、店舗で合法的に中古コンテンツを販売できるようになった。

 販売店側を代表する上昇の金岡勇均社長は、「もう中古ゲームソフトの販売で後ろめたい思いをせずに済む」と意気揚々と話したのが印象的だった。

 対するコンピュータソフトウェア著作権協会の久保田裕専務理事は、「中古ソフトとは、ゲームソフトだけでなく、家庭用DVDやパソコン用ゲーム、ビジネスソフト、音楽CDなど、すべてのデジタルコンテンツに当てはまる」と指摘。著作権協会では、中古ゲームソフトの判決を受けて、「法改正をしなければ、権利者の権利を守れない」と危機感を顕わにする。

 ソフトメーカーのなかには、「中古販売が止まらないなら、制作者は自らの著作権を“自衛”しなければならない。記録媒体と再生装置の通し番号および認証番号と暗証番号を掛け合わせて、複雑なアクセス制御を実施すれば、中古販売は消える。現にウィンドウズXPは、上記の方法で中古販売を阻止した」と鼻息が荒い。

 逆に、ネット上のコンテンツ流通で問題になったファイル交換サービスは、中古ゲームソフトのケースとは異なり、現在のところ「ファイル交換は不当だ」とされ、東京地裁から仮処分命令を受けるなど、きわめて風向きが悪い状態である。

 これに加えて、ファイル交換によって深刻な影響を受けた日本レコード協会では、「諸悪の根元はパソコンにある。パソコンが“コピーマシン”である以上、われわれのコンテンツをパソコンに供給するわけにはいかない」と、パソコンで音楽を聴けなくする特殊な音楽CD「コピーコントロールCD=CCCD」の規格を独自に取り決めた。これも本連載期間中のことだった。

 パソコンやAV家電など幅広く手がけるソニーでは、CCCDの蔓延に強い危機感を抱く。

 「CCCDは、音楽CDの規格を逸脱したもの。通常のCDプレーヤーでも再生できない可能性がある。この問題について、コンテンツ制作者側との交渉はまだ進展しておらず、頭が痛い。だが、今回のCCCDを契機に、パソコンなどに対して、従来の音楽CD経由でコンテンツを供給する方式ではなく、ネットワーク経由で販売する方式へと急速に移行する可能性が出てきた」(ソニー)と話す。

 だが、レコード会社では、CCCD化したアルバムの楽曲が必ずネット配信されているかといえば、そうとも言い切れず、当面は混乱が続きそうだ。

 ネット上での流通、リアル店舗での流通のいずれにおいても、コンテンツは欠かせない存在。コンテンツがなければパソコンやゲーム機などのハードも売れない。ネット上では、映像配信向けの編集をする事業者や、ミドルウェアの開発、CDN(コンテンツ配信網)などを構築する通信事業者などのビジネスが立ち上がらないままで低迷することになる。

 制作者・権利者との話し合いを深め、いま一歩、相互理解を進めることが、健全なコンテンツ流通にとって大きな課題である。(安藤章司)
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