OVER VIEW
<OVER VIEW>新しいトップを迎えたIBMの課題 Chapter2
2002/06/10 16:18
週刊BCN 2002年06月10日vol.944掲載
売上増大・海外戦略強化
●トップシェアの少ないIBMIBMが世界IT市場分野別に圧倒的トップシェアをもつのは、サーバー分野である。出荷金額でIBM32%、コンパック17%、HP14%という状況だ(Figure7A)。しかし、コンパックとHPを単純に合算すると、新HPシェアは31%と、IBMを逆転してしまう。パソコン終焉を98年に宣言しているIBMにとって、全サーバーの合計金額でHPに逆転されるのは耐えられないことだ。
ここにIBMサム・パルミザーノ新CEOは競合に痛みを与えるという意味の「ペインプロジェクト」の標的として新HPを選択する理由があると、ギガ・インフォメーション・グループは解説する。
サーバー出荷金額では、日本市場もIBMは富士通の後じんを拝することになる(Figure7B)。
メインフレームで日立製作所、富士通が米国から撤退した現在、世界市場を席巻するのはIBM1社という状況だ。この得意とするメインフレームも、国内市場では金額ベースでは第2位の28%シェア、そして台数シェアでは国産勢3社の後じんを拝する4位となる(Figure8A)。
国内UNIXサーバーでは、世界市場の順位と同一で、IBMはHP、サンに大きく引き離され3位で、同分野で世界最高速機を投入した富士通にも迫られつつある(Figure8B)。
さらにパソコンでは、世界、米国、日本のどの市場でもIBMは4-5位の中位メーカーで、そのプレゼンスはきわめて弱い。
世界、米国のパソコン市場ではコンパックを買収合併した新HPとデルの熾烈なシェア争いが展開されている。コンパックシェアを合算すると世界でHPシェアはデルと逆転するが、米国では及ばない(Figure9A、B)。
パソコンではデルとHPに大きくはなされて、IBMは同事業の抜本的見直しをパルミザーノCEOは決断するだろう。同事業の赤字解消は同CEO焦眉の課題の1つだ。パソコン日本市場でIBMはソニーにも追い抜かれ4位と低迷し、5位東芝とも僅差だ(Figure9C)。
こうしてガースナー時代のIBMは、利益的には完全復権したものの、売上高の伸びが年4.0%にとどまったことで、ハード各分野でシェアを大きく落とし、業界での影響力を小さくしてしまった。
パルミザーノCEOは、このプレゼンスの再強化を売上伸長によるシェアアップによって強力に推進しなければならない。それには国内各分野で国産勢の後ろにあるIBMは、とくに日本市場に焦点を合わせた海外戦略の強化も迫られる。EUでも、各国1社となった有力ITメーカーは、日本メーカーと提携を強めている。例えば、ブル(仏)はNECと、シーメンス(独)とICL(英)は富士通との提携を強めている。ICLは「富士通コンサルティング」と富士通を冠する企業名に代わっている。このためIBMは日本メーカーとの提携強化によって、EUでのプレゼンス強化も考えるのだろう。
●競合を打倒するペインプロジェクト推進
こうして、IBMはLinux/UNIXサーバー、ストレージ、ハイエンド・インテルサーバーというこれからITハード市場を牽引する各分野で、パルミザーノCEO得意の「ペインプロジェクト」を推進するだろうと米業界は憶測する。
IBMは「ITサービスで競合力を発揮する基盤は強力なハードである」という信念を貫き通してきた。これまで分析してきたように、IBMはメインフレーム以外に突出して高シェアのハード商品をもたないが、ローエンドからハイエンドのサーバー、ストレージ、ITサービスの重要基盤であるミドルウェアなどの総合力では強い競合力をもつ。これが単品メーカーのサン、EMC、デルなどとの大きな差別化ポイントなのだ。
今やIBMはITサービス、ソフトのノンハード売上構成比が56%、ノンハードは全税引前利益の80%となっている(いずれも01年12月期)。IBMの強味は巨額なITサービス売上高350億ドル(4兆5500億円)で第2位EDS以下の新HP、富士通とは大きな開きがある(Figure10)。
しかし、ITサービス専業EDS売上高は01年までの3年間に28%伸びたのに対し、IBMサービス伸長は21%にとどまり、じわじわとIBMに迫り始めており、パルミザーノCEOの「世界市場ITサービスシェア20%宣言」を促す要因となっている。
IBMが最近力を入れているのはデータベース、ウェブスフィアなどeビジネス向けミドルウェア。ガートナーによると、01年IBMデータベースソフトのシェアはインフォミックスを買収したことで、永年トップのオラクルとの逆転を演じた(Figure11)。
このシェア逆転発表にオラクルはクレームをつけるが、当分野ではIBMが強力になったのは間違いない。しかも、IBMソフト部門粗利益率は83%と異常に高く、IBM全社利益を支えるビジネスとなった。さらなるミドウェアの拡販をIBMは狙う。
●米国ウェイトを下げるパルミザーノCEO
米国IT市場は00年までのネットバブルに躍っての過剰投資によって、01年から2ケタの減少となり、当面大きな回復は望めない。そのため、売上伸長を狙うパルミザーノCEOは、とくに世界第2位の市場で、e-Japanの行政電子化で最大15兆円という巨大市場が誕生した日本市場でのプレゼンス強化を含めて米国外市場戦略を強化する。
IBMはこれまでも米国市場ウェイトが40%強で推移しており、13%台の日本ウェイトも米国有力メーカーでは圧倒的に高い(Figure12)。
わが国UNIXサーバー市場でトップシェア(台数)をもつサンですら日本市場ウェイトは9%台だ。IBMは世界的に強力販売網をもつためEUでのウェイトも高い。しかし国内トップ富士通のIT国内売上高は2兆813億円(02年3月期)で、日本IBMの国内売上高1兆4608億円(01年12月期)とは開きが大きい。パルミザーノCEOは日本IBM専務も経験し日本通を自負していることもあって、日本での売上高が国産勢と肩を並べるまでに伸びることを念願しているようだ。
米国市場回復が当面期待できない現状、売上高伸長を課せられた新CEOは、日本国内市場で、国産勢と真正面から競合するのではなく、これら国産メーカーとの提携戦略強化によって売上高増を狙う。
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