変わるかシステム入札

<変わるかシステム入札>9.プロシード(上)

2002/06/03 20:43

週刊BCN 2002年06月03日vol.943掲載

 コンサルティング会社のプロシード(西野弘社長)は、経済産業省のプロジェクトマネジメント研究会の事務局をつとめ、効率的なIT構築を推進している。ITサービス調達のプロジェクトマネジメントは、欧米の政府で用いられており、透明性が高いとされている。西野弘社長は、「政府調達では、安値調達ばかりが悪い点として取り沙汰されている。しかし実はそこだけが改善されればよいということではない」と指摘する。

安値入札を変えるには

 ――政府のIT調達について、安値入札だけが問題点ではないと指摘されていますね。

 西野
 マスコミは、「1円入札のような安値入札が大きな問題」と喧伝しています。しかしそれが本質ではありません。その部分にばかり焦点をあてているのはマスコミの勉強不足じゃないかと思いますよ(笑)。

 ――では、政府のIT調達の問題点はどこにあるのでしょうか。

 西野
 現在の入札制度を改善するためには、4つの改善が必要だと思います。

 1つ目の改善点は、入り口部分の質を向上することです。

 発注者はきちんとした仕様書を書けるように勉強し、より高度なIT調達を目指す姿勢を示さなければ、進化どころか退化していくばかりです。

 2つ目が信頼性あるベンダーが妥当なシステムの入札を行ない、透明性ある入札を行っていくこと。

 3つ目は、入札されたシステムが本当に予定通り構築されていくのか、モニタリングを行う体制を作ることです。

 そして、4つ目が、コスト通りになっているのかのチェックです。

 この4つのポイントすべてがクリアされてこそ、1円入札を止める効果が出てくると思うのです。

 ――大きく騒がれているのは2点目ですが、それだけでは不十分だということですね。

 西野
 そうです。4つとも技術を問題視しているわけではなく、調達のプロセスが問題なのです。プロセス全体を改善することで、透明性が高く、妥当な入札が行われると思います。

 残念ながら、日本の官庁のIT調達は「何のために(その調達を)行うのか」という視点に欠けます。

 最初に予算ありきなので、予算を執行することに重点が置かれています。「何のために」という視点が欠けているのです。これは調達ではなく、購買にしかならないと思います。

 確かに現在の制度でも法律に違反しているわけじゃない。ただ、中学生にきちんと説明することができるのかということです。後ろ暗い気持ちがして中学生には説明できないと感じてしまうようなら、大人として説明責任から逃れていることじゃないかと。そう話すと、みなさん苦笑いしますよ。

 ――官庁側から、「ITはほかの調達と異なり、目に見えないソフトを調達しなければならないので、価値の試算が難しい」という声があります。

 西野
 海外では、かなり高度なIT調達が行われています。その辺りの現状をきちんとリサーチしていないのではないでしょうか。

 日本の官僚は能力は高い。でも、「ITは特別」という答えが返ってきてしまうのは勉強不足だと思います。

 IT業界でも、技術に関しては詳細にウォッチしているにもかかわらず、プロセス部分の研究は遅れています。

 米国ではテクノロジーがオープンになったことで、人間側がプロセスをマネジメントしていくことで競争力をつける方向になっています。

 IT業界でもこうした点を研究していく必要があるのではないでしょうか。

(三浦優子)

【略歴】
(にしの・ひろし)1956年4月、神奈川県生まれ。79年早稲田大学教育学部卒業。全日空商事、丸高産業、トランス・メディア・リソーセスを経て、91年プロシードを設立、代表取締役社長に就任。総務省次世代携帯ビジネスモデル研究会委員、沖縄県産業振興審議会委員、2001年未来基金会長(ビルゲイツ印税基金)などを務める。
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