WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第107回 強気のIBMパルミザーノCEO

2002/06/03 16:04

週刊BCN 2002年06月03日vol.943掲載

 02年に入っても世界的IT不況感は弱まる気配を見せない。このため世界IT市場の縮図と目されるIBM売上高も02年1-3月、前年同期比11.8%減、純利益も31.9%という減収減益となった。(中野英嗣●文)

「戦略転換は不要」

 02年に入っても世界的IT不況感は弱まる気配を見せない。このため世界IT市場の縮図と目されるIBM売上高も02年1-3月、前年同期比11.8%減、純利益も31.9%という減収減益となった。当決算発表日、IBMサム・パルミザーノCEOは幹部社員に、「IBMは再度ベルトを締め直さなければならない。ただし当社は競合他社が2年間這い上がれないでいる深い不振の穴に陥った事実はない。しかし、IBMには効果永久の不況免疫力があると誤解してはならない」とゲキを飛ばした。この演説は外部には公表されなかったが、ある米コンサルタントが入手経路を極秘のまま内容を公開した。このコンサルタントによると、その続きの骨子は次の通りだ。「IBMはいまだ実現できていない強固な成長路線を描くため巨額投資を続けている。IBMは現状にとどまることを許されず脱皮を繰り返さなければならない」

 さらに続けて、IBM戦略転換は不要だと、自社戦略の正当性を次のように強調した。「IBMには効果抜群の不況免疫力はない。IBMにも強い不況風が吹きつけるが、競合他社に比べれば、経営環境は良好だ。従ってIBMは従来通りの戦略を貫き通す。わが社の戦略が正しいことを私は力を込めて断言する。IBM戦略が正しいからこそ、HPはコンパックを飲み込んで同社カーリー・フィオリーナCEOは、その戦略をIBMコピー版のまま発表した。サンもIBMを見習ってそのITサービス力を強化するためサービス専業EDSと手を結んだ。またサンはこれまで自社アーキテクチャだけに固執して、コンピュータ業界のオープンスタンダードとして定着したLinuxにも反抗してきた。しかし、サンもLinux市場へ参入した。これもサンがLinuxリーダーIBMの地位を強化することにつながり、サンもIBM戦略を追いかける。IBMには戦略転換は不要だ。ただひたすらその具現化に邁進するだけだ」

 02年1-3月決算ではIBMはパソコンや半導体だけでなく、得意としてきたメインフレーム、大型サーバー、ストレージなどエンタープライス製品売上高も20.8%減、屋台骨のITサービスも2.9%減となり、パルミザーノ新CEOの出鼻をくじいた。一方、サービスでIBMを追うEDSは不況下でも増収を続け、パルミザーノCEOを焦らせる。パルミザーノ演説を知ったウォールストリートのあるアナリストは次のように論評した。「パルミザーノ演説主旨に、IBM戦略転換の動きは全く感じられない。同CEOは自社戦略に強い自信をもっているのだろう。パルミザーノ戦略は現状維持そのものといえよう。しかし一般論をいえば、IT価格破壊はすさまじいが、IBM製品価格はいつも最も高い。もしパルミザーノCEOが一定期間自社利益を犠牲にして、製品価格を絶え間なく低化させれば、競合の多くは体力を消耗して市場退出となり、IBMシェアは一挙に上昇する」

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