OVER VIEW

<OVER VIEW>幕が開くエンタープライズLinux時代 Chapter4

2002/05/27 16:18

週刊BCN 2002年05月27日vol.942掲載

 Linux後進国と指摘されてきた国内でも多くのユーザーがLinuxを利用し始めた。しかしまだその大半はウェブサーバーなどITインフラ部分での活用だ。しかし高炉制御、オンライントレードという企業基幹業務で著名企業の導入事例も発表され、わが国にもLinux時代の到来を告げた。IBMと国内3メインフレーマのエンタープライズLinux共同開発も国内での普及を促進する。Linuxシステム構築経験豊かな国内システムインテグレータ(SIer)トップは3段階での企業システムのオープンソース化を提唱する。

国内、アジア市場にもLinux時代が到来

●国内市場でもLinux普及し始める

 わが国ではLinuxのソースコードが公開されていることもあって「Linuxは安かろう、悪かろう」とのイメージがこれまで強かったと多くのLinux関連SIer幹部はいう。

 しかしこの悪いLinuxイメージも急速に払式され、逆に「LinuxはソースレベルでOSをチェックしてくれる人が世界にたくさんいる。従ってLinuxにはバグも少なく信頼性が高くなった」と考える人々が増えたと、Linux技術認定をするLPI(リナックス・プロフェッショナル・インスティテュート)ジャパンは説明する。

 Linux後進国といわれたわが国でも、新日鉄が高炉制御にLinuxを採用し、住友電工は数百台のLinuxサーバーを導入して1年間無故障、立花証券がオンライントレードをLinuxベースで開始というような導入事例が数多く報告されるようになった。

 IDCは00年国内インテルサーバーOSのLinuxシェアは7.4%であったが、04年には24%とLinuxが国内でも積極的に利用されるようになると発表した。

 同調査によると、国内ユーザーはファイル/プリンタ共有にWindows、アプリケーションやデータベースにはUNIX、そしてウェブ用インフラにはLinuxというように、業務によってサーバーOSを使い分け始めた(Figure19)。

 また、Linux導入企業の半分はウェブサーバーに利用し、導入理由では「ライセンス料不要」、「経済的メリット」が上位を占める。

 これから国内でLinux普及を促進するには、米IBM、NEC、日立製作所、富士通の世界4大メインフレーマが共同でエンタープライズLinuxを開発したことが大きく役立つと考えられている。

 共同開発OSの基幹技術開発は完了し、02年1月に発表され、当技術を載せた新OSは03年から世界で出荷される(Figure20)。

 国内メインフレーマが自社のメインフレーム、UNIXサーバー、インテルサーバーでLinuxを搭載し積極的に販売すれば、当然Linux導入ユーザーは急速に増える。またIBMが16CPU構成まで可能な大型インテルサーバーを国内でも販売し、この主力OSの1つにLinuxを据えたこともLinux普及を促進するだろう。

 またインテル64ビット「McKinley(マッキンレー)」サーバーが出荷されれば、インテルも開発費を負担したIBMのUNIXとLinux統合OS「AIX5L for IA-64」も発売されることになり、これも上位インテルサーバーでLinux普及を促進する。

●技術認定制度、研究拠点開設も普及を促進

 Linux普及を促進する非営利団体OSDL(オープンソースデベロップメントラボ)が01年10月、米国に次ぐ世界2番目の研究拠点を横浜に開設した(Figure21)。

 OSDLはIBM、NECなど4社が幹事で、Linuxディストリビュータや日立、富士通、デルなどがメンバーとして参加している。

 OSDLも米国に次ぐ世界第2の国内IT市場でLinux普及を促進する狙いがある。当拠点はアジア・太平洋の開発者に開発環境を提供すると同時に、国内Linuxプロジェクトを募集しこれを支援する。4大メインフレーマ共同開発のOSもこのような研究機関の認定を受ける。

 また国際的Linux認定機関や米国Linuxディストリビュータは国内でのLinux技術認定制度を積極的に充実化している(Figure22)。

 LPIは世界共通のLinux技術者認定制度を国内に導入し、顧客が安心してLinux技術者に開発を委託できるようになることを狙う。

 米系ディストリビュータ認定制には既に国内で数千人単位で登録されており、国内でもLinux技術者が急増していることをうかがわせる。

 「国内でのLinux普及で懸念されるのは、中堅・中小SIer幹部にLinuxが本格的に認識されず、それらに属するLinux技術者が少ないことだ」と日本IBM Linux事業部は語る。

 中小企業にも幅広くLinuxが普及するには、この指摘の解消が重要であろう。

 Linux普及に熱心なのは中国だ。中国政府は中国科学院と共同Linuxプロジェクトを推進している(Figure23)。

 中国政府出資のソフト会社2社が中国版Linuxとそのオフィスパッケージ「Regflag(紅旗)Linux」「RedOffice」を開発した。中国政府は当Linuxパソコンを大量に導入し始めている。

 中国同様人口が多く1人当たりGDPの小さいブラジル、インド、インドネシアはパソコン普及に高いOSライセンス料が障害となるため、中国のLinux政策に注目している。

 また独、仏政府は米技術からの脱却という国家プライドの観点から欧州生まれのLinux戦略を策定していると伝えられている。

●3段階のオープンソース化を提唱

 国内でJavaやLinuxの専業大手SIerであるテンアートニーの角田好志会長は、当然のことながら国内でのLinux普及に熱心で、多くのLinuxシステム構築経験から数々の助言を行っている。

 とくに同会長は特定メーカーに囲い込まれたOSをインフラとするブラックボックスシステムには、セキュリティやデータ漏洩上の危険が高いと指摘する。

 Linuxは2.4版によって信頼性、スケーラビリティが高まったので、次の3段階でシステムのオープンソース化を推進すべきだとの自論を語る(Figure24)。

 そのステップとは、(1)OSにLinuxを採用するインフラオープンソース化、(2)アプリケーション個性を吸収してくれるLinux対応のミドルウェア採用、(3)ユーザー開発の業務アプリケーションのソースコードを公開して複数ユーザーで共用する業務オープンソース化――である。

 業務のオープンソース化によってユーザーの負担するメインテナンス費用も安くなりTCO(所有総コスト)も大幅に削減できると同会長は強調する。
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