視点

複製防止CD

2002/05/13 16:41

週刊BCN 2002年05月13日vol.940掲載

 複製の被害が甚大だという理由から、音楽産業は我も我もの勢いで複製防止CD(正確にはCD規格ではない)に走るが、いかにもびぼう作の色彩が濃い。確かに、それはパソコンでは再生不可能で、MP3ファイルに変換したりCD-Rに焼いたりはできないが、それはデジタルドメインでの話。極端な話、スピーカーからの音をマイクで録り、それをコピーメディアにデジタル複製することはできる。しかも、複製防止CDには、カーステレオなどの一部のプレーヤーで再生不可能であることや、音質的な問題も指摘されている。緊急避難としては正解かもしれないが、メディア発展の観点からすると正答ではない。そもそもCDは、複製の問題など考えてもいなかった70年代後半に考案されたデジタルメディアである。想定していない問題が出現してきたことは、事態が根底から変わり、新時代に対応したソリューションが必要になったことを示している、と読まねばならぬ。

 ここで参考になるのが、DVD-VIDEOの成功要因である。メディアとシステムに複製防止機能を初めから組み込んだことがきわめて大きい。その習いで、音楽パッケージメディアも、著作権保護のシステムが整ったメディア、つまりDVD-AUDIOとSACDに一刻も速く移行すべきだ。CDが異様に勢力を増したから、CDにこだわる向きも多いわけだが、問題が露呈したメディアが次世代メディアに乗り越えられるのは当然のことである。現に、CD族でもビデオCDやCD-V(アナログ動画付きのCD)などは衰退している。

 いまレコード会社がやろうとしていることは、「北風と太陽」に例えられる。音質劣化や互換性上の無理をしてでも複製を防止させようとするのが北風である。それよりも陽光を浴びて思わず外套を脱ぎたくなるような、つまりぜひ購入して聴きたい、楽しんでみたいと思うようなパワフルな次世代メディア作品をつくることだ。ウルトラハイファイの高音質や、マルチチャンネルの高臨場感で聴く方が、CD-Rなどより遙かに面白く、感動的だと思わせるDVD-AUDIO、SACD作品こそ、著作権問題の本質的な解決になろう。小手先の対策では、問題はいつまで経っても解決せず、先送りになるだけだ。まるでどこかの国の経済のように。
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