大航海時代
<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第31話 顔
2002/05/13 16:18
週刊BCN 2002年05月13日vol.940掲載
水野博之 高知工科大学 副学長
人にはそれぞれ異なった顔があるように、その好みもまた一様ではない。ただそのなかにあって、ベストセラーとなるには、かなりな人の好みに合う、ということが必要である。ただ、大変難しいのはこの種の好みは時代とともに変わる、ということだ。例えば美男美女の変遷を見てもこのことは明白であろう。人それぞれに好みがある、といってもやはり美男美女の標準はある。しかし、この標準も時代とともに大いに変わっていくものなのだ。かつて、古代から江戸時代頃まで、美女といえば、顔のふっくらした下膨れ型であった。眼は柳のように細く長くないといけなかった。ギョロ目なんてのはもっての外、下品の象徴とされたものだ。現在ではどうか。目が大きいのは大歓迎。スタイルは小股の切れ上がったあまり大きくないのが良いとされたものだ。色は白をもって最高とした。「色の白さは百難を隠す」と言われ、美女の典型とされたものだ。それがどうだ。現在は「顔黒」あり、「顔茶」あり、ありとあらゆるタイプがある。
男の方も同じだ。かつての色男はノッペリ型でナヨナヨしているのが良かった。ヒゲ跡が濃く、くまどりの強い男は美男どころか、悪役の代表であった。論より証拠、歌舞伎を見てごらん。お軽、勘平の成り行きの勘平がいかつい隆々たる男であったら、とても奇妙だし、悪の熊坂長範がナヨナヨ男であったらどうも恰好がつかんだろう。こんな具合に、それぞれの時代にはそれぞれの基範がある。ベストセラーを生むにはその基範の何たるかをまず知らんといかんだろう。しかし、それだけでは駄目なのだ。それを昇華し、さらにその過程で「何か」を付け加えたものが、1つの流行になっていくのである。それはシュンペーターの言う「ドルヒゼッシング」から生まれる。(ソウルにて)
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