大航海時代
<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第31話 商品のカリスマ性
2002/05/06 16:18
週刊BCN 2002年05月06日vol.939掲載
水野博之 大阪電機通信大学 副理事長
経済学者のケインズは株も大変得意で、よく儲けたといわれる。たまたま、株で儲ける秘訣をきかれて、「いい株に投資するのではない。人々がいい株と思う株に投資することだ」と答えたといわれるが、この言葉は一般のビジネスにおいても大変有用なものであろう。「よい商品は売れる」ことは事実だが、「すべてのよい商品」が売れるわけではない。顧客がよい、と思った商品が売れるのである。これを一歩進めると、「顧客によいと思わせた商品」が売れる、ということになる。たかが(?)ビニールのカバンが数10万円で売れるのも、お客がそのブランドの商品が「良い」と思っている故で、ここに一種の魔術が存在する。どんな素晴らしい商品でも人々が良いと思わなければ売れないわけで、「品物さえよければよい」と単純に言い切れないところに商売の難しさがある。これはあらゆる世界に当てはまるもので、映画の世界でいえば、黒澤や宮崎の名がつけば、人々はそのロマンの正当性を信じて疑わないことになっているのであろう。いわば、これら商品は何か夢を求めてくる人々に「夢とはこんなものですよ」という納得をさせる力をもっているといってよい。
これを「カリスマ性」と呼ぶとすれば、それは人々の心の最も深いところにあるものを開放する力であると言って良いかもしれない。当然そこには「そのようなものは厭だ」という人たちもでてくるわけで、あのようにリピーターを動員し、空前の売り上げをあげた「千と千尋」についても意外と低い評価しか与えていない人たちがいる。そして、それは結構、強い自意識をもったインテリに多いようだ。その人である私の友人に、「何故、そう否定的なのだ?」と聞くと、答えは明快に返ってきた。「気持ちが悪い!!」。なるほど、夢と気味悪さは紙一重であるに違いない。
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