OVER VIEW

<OVER VIEW>幕が開くエンタープライズLinux時代 Chapter1

2002/05/06 16:18

週刊BCN 2002年05月06日vol.939掲載

 これまで米国でも中小企業専用OSと考えられていたLinuxが、次々と世界的大企業のミッションクリティカル分野へ導入され始めた。マイクロソフトを除く世界の有力ITベンダーも一斉にLinux商品を充実させている。IT投資効果が厳しく追求されるようになり、ベンダー固有OSの呪縛から逃れたいユーザーマインドもLinux普及の加速要因だ。とくに次世代eビジネスの中心であるウェブサービスではアプリケーションが新規に開発されることもあって、Linuxが中核プラットフォームになるとの見方が強まっている。

経済低迷がLinux普及の追い風に

●経済低迷がLinux普及を後押し

 01年後半より米国中堅・大企業(エンタープライズ)市場でのLinux導入気運が急速に高まり始めた。

 多くの米アナリストは、世界経済低迷によって企業のIT投資が削減され、しかもIT投資効果(ROI)の追求が厳しくなったことが、OSカーネルのライセンス料が無料のLinux人気を高めたと解説する。

 ITメーカーでLinuxへ最も注力しているのはIBMだ。IBMはエンタープライスでのLinux導入が活発化している理由として、(1)IT投資効果の厳しい追求、(2)ユーザーから見たLinux信頼性の向上、(3)多数のLinux導入成功事例の発表、をあげている(Figure1)。

 現在、世界のITベンダーでLinux普及阻止を声高に挙げているのは当然ながらマイクロソフト1社となってしまった。同社はLinuxが普及したとはいえ、01年末現在、世界のサーバーOSでのLinuxシェアは11%に過ぎないと、同OSの普及度が低いことを主張しながらも、同社幹部はLinuxがWindows最強の競争相手だと認識している。

 日本IBMは、世界で米国に次ぐ巨大な国内IT市場をLinuxベースのオープンスタンダード普及市場へ育成することに注力し始めた。IBMはNEC、日立製作所、富士通とエンタープライズ版Linuxを共同開発し発売したことで、日本をWindows王国から一挙にLinux普及国へと変革させたいと考えているようだ。

 日本IBMはLinuxがユーザーに受け入れ易い理由を次のように説明している。(1)Linuxはオープンソースでバグ修正、新コード開発スピードが早い、(2)Linuxは無料と配布自由という2つの意味をもつフリーOS、(3)Linuxはあらゆるプロセッサ、そしてマイクロソフト以外のすべてのミドルウェアに対応しているので、ユーザーはそれぞれの時点で最も投資の安いプラットフォームを自由に選択可能である(Figure2)。

 これによってユーザーがデータ量や業務範囲の拡大でサーバーを上位にアップグレードしても、ソフト資産がそのまま使え、ユーザー投資が長期的にわたって有効であることを企業IT部門が十分に認識したことがLinux普及を加速していると、日本IBMは説明する。

●ITインフラからミッションクリティカルへ

 00年のサーバーOSシェアで、Linuxは既にWindows41%に次ぐ27%となった。これに各社UNIXを加えたUNIX系OS合計シェアはWindowsと並ぶまでになっている。01年にはこのUNIX系シェアはウィンドウズを逆転したと考えられる。

 また世界のサーバー出荷金額でトップ32%シェアをもつIBMをはじめ、サーバーメーカー上位のコンパック、HP、サン、デルがすべて大小さまざまなLinuxサーバーを販売していることが、Linux普及に拍車をかけている(Figure3)。

 米国でのLinuxサーバーは当初、中小企業のウェブサーバーなどウェブインフラITやプリント/ファイルサーバーとして普及し始めたが、同じような利用領域でエンタープライズにも広がった。

 そして01年後半より、著名な世界的大企業がミッションクリティカル分野へLinux導入を活性化させた。02年後半には米大企業の多くが中核のデータセンターにLinuxサーバーを導入する動きが活発になると米国では予測されている。

 そして02年後半から本格的システム導入が始まるXMLベースのウェブサービスでは、Linuxサーバーが中核サーバーになると、米ギガ・インフォメーション・グループは予測する。

 ギガはLinuxはさらにネット端末、携帯機器やデジタルAV(オーディオ・ビジュアル)の組み込み用途、オフィス以外の制御系などへとその用途は大きく拡大すると予測する(Figure4)。

 さらに多数のWindowsパソコンのOSライセンス料を削減するため、「デスクトップWindows」のオルタナティブ(代替)としてもLinuxに注目が集まるとギガは予測する。

 01年まで米国でも、Linuxは中小企業専用OSと認識するSIerも多かった。しかし現在では、ミッションクリティカル分野、とくに新しくアプリケーションが開発される次世代eビジネス(ダイナミックeビジネス)で企業の規模を問わず、Linuxが中核になると予測する米アナリストは多い。

●ユーザー、業界が一致してLinux普及を促進

 日米の有力ITベンダーは、それぞれLinux関連商品を充実させている。

 米国ではロッキード、モルガン、シェル、クレジット・スイス、バンク・オブ・アメリカなど著名企業が次々とミッションクリティカルでのLinux導入成功事例を発表している。

 国内では住友電工、新日鉄などがLinux採用の先行企業として知られている(Figure5)。EUでもドイツテレコム、テリア(スウェーデン)など巨大通信事業者がLinux導入で先行している。

 米CRN誌の調査によると、02年1月現在、米システムインテグレータ(SIer)の41%が中小企業市場でLinuxがウィンドウズオルタナティブになると考え、35%がエンタープライズでもLinuxがオルタナティブOSになると考えている(Figure6(A))。

 しかしLinuxの本格的普及にはまだ多くの課題があることも事実だ。同誌の調査によると、多くの米SIerがアプリケーション多様化、ユーザーの受け入れ姿勢、技術サポート体制、ユーザーとSIerのトレーニング、技術者認定制度がLinux普及の重要な因子と考えている(Figure6(B))。

 IT業界やITユーザーは、きわめて限定されたソフト開発企業が長い間世界のOS市場を独占してきたことの弊害を指摘し、その現状への反発を強めていることは否定できない。

 「ウェブ時代の世界では、コンピュータOSは1種の社会公共財(エッセンシャルファシリティ)であるべきだ」と主張する米国経済学者も多い。

 とくに世界の大企業のユーザーIT部門は、メインフレーム、UNIX、WindowsなどのOSで長年にわたって縛られてきた固有メーカーから逃れたいと願っていることも事実で、これがLinux普及の基盤になっているとも考えられる。
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