視点

プロバイダ責任法

2002/04/01 16:41

週刊BCN 2002年04月01日vol.935掲載

 今年2月、ファイル交換のサービスを提供している日本エム・エム・オーは、著作権侵害などに基づいて、東京地裁に訴訟を提起された。ピアツーピア技術そのものはただちに違法とは言えないが、ファイル交換ソフトユーザーの多くがやりとりしているのは、他人の著作物であるソフトウェアや音楽ファイルであり、昨年暮れ「WinMX」ユーザーが刑事摘発を受けたことは記憶に新しい。

 ネット管理者、プロバイダなどは、このような違法状況を知りながら防止措置などを講じないまま情報サービスを提供することは、著作権侵害を誘引・助長・援助していると言える。

 このような視点から、インターネットでの著作権侵害をはじめとした権利侵害や違法行為への対策として、5月から「プロバイダ責任法」が施行される。

 この法の狙いは、情報発信によって著作権侵害などが引き起こされた場合、権利者(被害者)と発信者との間に「板ばさみ」となるプロバイダの救済である。プロバイダの法的責任の免責範囲を示すことで、プロバイダによる自主的対応の方向性を与え、侵害状況除去を迅速に行わせることを目的としている。

 しかし、このプロバイダ責任法の条文が、「他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があるとき」と規定されているため、免責の範囲を決定する「相当な理由」が抽象的である。その結果、判断がまちまちとなって、権利者からプロバイダに対する訴訟が頻発する懸念が生じた。これを避けるため、現在プロバイダ団体と権利者団体の間でガイドラインの作成作業が進んでいる。

 ACCSでは、プロバイダに削除を要請する手続きとして、「権利者による申立」を「団体が内容を保証」することをもって、「相当な理由」に該当とすると考えている。

 また、この「団体」とは、申立内容の真偽が確認でき、著作権法に関する専門知識などをもち、連帯責任に耐えうる非営利団体とし、その適格性を担保する。

 これに対し、プロバイダ団体側がこのガイドラインにおいて、あまりに細かい手続きを要求し、迅速な対応ができないとすれば、この法律をつくった意味がなく、権利者側は積極的に具体的訴訟を起こすことで、実質的なガイドラインづくりをすることになるだろう。それは何としても避けたい。
 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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