攻防! コンテンツ流通

<攻防! コンテンツ流通>1.ネットで流通する音楽ファイル

2002/04/01 16:04

週刊BCN 2002年04月01日vol.935掲載

 

 「AV(音響・映像)じゃなきゃ、パソコンじゃない」ほど定着してきた「AVパソコン」。AVコンテンツがパソコン販売に弾みをつける。

 この連載では、パソコン販売のカギを握る「コンテンツ流通」を取り上げる。ハード、ソフト、インフラ、著作権の各方面から、コンテンツ流通の問題に迫る。

 ADSLなど数Mbpsの実効帯域で、従来と同等の品質で配信できるコンテンツといえば音楽である。コンピュータ業界は、この「手っ取り早い」コンテンツをパソコンに取り入れ、こぞって「AVパソコン」と称してきた。

 ところが、インターネットは双方向だ。レコード会社が音楽コンテンツを配信する「下り」の流通路と同時に、ユーザーのパソコンがもつCD-ROMからコンテンツを吸い上げ、ネット上に垂れ流す動きが出てきた。焦ったのはレコード会社である。

 日本レコード協会の富塚勇会長は、「インターネットには、権利者が正当な対価を受けるというシステムが未だ確立されていない」と、強く不満を表明する。

 レコード会社が危機感を抱く間もなく、CD-ROMから吸い出した音楽コンテンツを不当に流通させる仕組みが国内に登場した。日本版ナップスターとも言われる「ファイルローグ」だ。運営元の日本MMO・松田道人社長は、「不当なコンテンツがあったらすぐに削除する」と、正当な運営であることを訴えるが、レコード会社は納得できず、現在、損害賠償を求めて係争中だ。

 著作権問題に詳しいコンピュータソフトウェア著作権協会の久保田裕専務理事は、ファイル交換サービスの問題点について、「スーパーで包丁を売っても犯罪件数は増えないが、ファイル交換サービスを放置すれば、確実に犯罪が増える」と指摘する。

 パソコンに対して不信感を抱くレコード会社は、ついに音楽CDの規格「CD-DA」を変更し、独自のコピー防止機構を採用し始めた。

 大手レコード会社のエイベックスがパソコンのCD-ROMで再生できない国内第1号の音楽CDを3月に発売した。

 これにはイスラエルの暗号開発会社の技術を採用している。ほかのレコード会社も強い関心を示す。

 「これがビジネスチャンス!」とばかりに、名古屋のソフト会社アールワンズ(羽田竜太郎社長)が、台湾のサイバーアジアテクノロジーの暗号化技術を採用した音楽CD向けのコピー防止技術を今春から売り始めた。レコード会社が製作した音楽CDに、1枚当たり80円の費用で「特殊処理」を施す。これでパソコンのCD-ROMドライブから音楽コンテンツを取り出せなくなる。

 アールワンズの稲村博志専務取締役は、「どんなパソコンを使っても、音楽CDから音を取り出す『リッピング』や『MP3への変換』ができない。ただし、ラジカセやステレオコンポなど、従来の音楽CDプレーヤーを使えば、これまで通り音楽を楽しめる」と胸を張る。

 そんななか、音楽CDの規格を開発したソニーは、勝手に規格が変えられることに不満の色を隠さない。

 AVパソコンの代名詞ともなった「バイオ」を統括する木村敬治執行役員は、「国内では珍しいかも知れないが、海外では音楽CDにコピー防止機能を入れるのはよくあること。しかし、ほとんどと言っていいほどCDプレーヤーと互換性の面で問題を起こしている」と指摘する。

 「音楽CDの規格にコピー防止を埋め込むかどうかは、レコード会社が決めることで、われわれメーカーがどうこう言うことではない。しかし、消費者に混乱を起こさせることだけは避けて欲しいとお願いしている」。木村執行役員は懸念を示す。(安藤章司)
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