Break it! ソフト流通百景

<Break it! ソフト流通百景>37(最終回).流通に厳しい時代続く

2002/03/25 16:18

店頭とオンラインが併存

 「昨年から今年にかけて開店した大型店舗で、ソフト売り場が充実しているところはほとんど見あたらない」――。これは複数のソフトメーカーが漏らす感想である。

 鳴り物入りで開店する大型店舗では、パソコン本体をはじめ、周辺機器、サプライなどの充実ぶりが目立つ。ところがソフト売り場に目を向けると、「店舗の大きさに比べて、ソフト売り場にはそれほど力が入っていないのが分かる。あれにはちょっとがっかりした」と、ソフトメーカーの首脳陣が苦笑いする。

 逆に、以前から期待されてきたソフトのオンライン販売市場は、着実に規模を拡大しつつある。日本のオンラインソフト大手、ベクターでは、「昨年の11月以降、売り上げは急拡大している」(梶並伸博社長)という。

 これは自宅がブロードバンド環境になった個人ユーザーの増加など、インフラがオンライン流通にとってプラスに働いているからだろう。

 ベクターの売り上げは、今年度第3四半期(2001年10-12月期)では、営業収益が4億1221万円と、前年同期比96.2%増と大幅に躍進している。

 しかし、それにもかかわらず「店頭はもう捨てた」と話すメーカーは皆無である。

「商品によってはオンライン販売のウエイトが急上昇している」と話すエー・アイ・ソフトのようなメーカーでさえ、「店頭は重要な販売チャネルの1つであることに変わりない」(北沢昇社長)という。

 ピーアンドエーのように、「直販ソフトの割合を増やしていくことが収益確保のカギ」(池田勇二COO代理兼営業統括部長)というメーカーも、「店頭営業をやめるつもりはない」という。

 つまり、店頭とオンライン流通が完全に入れ替わることはすぐには起こりえないと、ソフト業界の当事者達は考えている。

 店頭のソフト売り場が充実しているとはいえないなか、各社が店頭を重視する姿勢を変えないのは、「店頭に商品を並べることで得られる宣伝効果が大きい。とくに、初心者ユーザーの獲得には店頭のもつ意味は大きい」と多くのベンダーが認識しているからだ。

 アドビシステムズのように、製品単価が高く、法人需要が多いベンダーも、「店頭はユーザーと商品のファーストコンタクトの場として重要」(石井幹副社長)と位置づけ、店頭営業を重視。日本でこの戦略が成功したことから、「ワールドワイドでも日本の例に倣って、店頭を重視すべしという戦略となっている」と、店頭の重要性は全世界的に認められたものという。この傾向は、当分続くだろう。

 それにも関わらず、店頭は活気づかない。これはパソコンビジネスが誕生してから20年を超え、ソフトメーカーの寡占化傾向が強まり、新しいメーカーが参入しにくくなっていることも1つの要因だ。

 いずれの分野を見ても寡占化傾向は強まっているが、これはソフト開発コストの増大などにより、新規参入が難しくなっていることを表わしている。

 しかも、ソフトの単価は10年前に比べ着実に下がっており、開発コストの増大、店頭流通のためのコストの増大と、メーカーにとって厳しい状況が続く。

 オンライン、店頭と複数のチャネルが併存することで流通間の競争は激しくなりつつ、メーカーにとっても厳しい環境――。ソフト流通は当分はこの傾向が続きそうである。(三浦優子)
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