どうなる? PCリサイクル

<どうなる? PCリサイクル>20(最終回).問われる業界の真価

2002/03/25 16:18

 

物販体質からの脱却を

 メーカーは「モノを売る商売」ではなく、「商品の価値や機能を売る商売」だと考え直すべき――。横浜市環境事業局事業推進部ごみ政策課の深見啓司課長は、「メーカーは、サービスや価値の創造を主軸に置くと主張しているが、こと、リサイクルについては、依然として物販体質から抜け出していない」と指摘する。

 貧しかった時代は、モノ(商品)を所有することで豊かさを感じた。だが、モノ余りの現代では、消費者は商品の価値や機能に金を払っている。金を払う対象はモノではない。メーカーはモノに価値や機能を乗せて販売し、価値を消費したあとの抜け殻(モノ)は、生産者であるメーカーが回収する。回収後はリサイクルして、再度、価値を乗せて売る。この仕組みをつくる責任が「生産者責任」である。

 “物販体質”が強く残っていればいるほど、価値を消費したあと、モノを回収するという発想にならない。逆に、いち早くサービスや価値を販売する発想に切り替えたメーカーは、個人リースや使用済みのモノを回収する仕組みをつくりやすい。

 「個人リース」とは、商品の価値を売る一方で、この価値を乗せたモノはリース(賃貸し)する方式だ。価値を消費したあとの抜け殻は、リース約款に基づきメーカーが回収する。産業構造審議会の審議のなかでも、「個人リース」の導入を提案する意見が出ている。モノにこだわらない消費者が増えるなか、「個人リース」の仕組みを使えば、回収率が格段に向上する。

 「最新の物流システムでは、JANコード(共通商品コード)や製造番号などを基に、どの販売店に流れたかが把握できる。最近のウィンドウズは『利用者登録』の機能まであると聞く。こうした情報システムを使えば、誰が、どこで、いつまで使っているのかが分かり、回収も容易だ」。深見課長は、販売体制そのものに回収する仕組みを埋め込むべきだと主張する。実際、コンピュータ業界はこうした情報システムを構築するのが得意である。

 深見課長が、メーカーによる回収率向上を切実に願うのには理由がある。「不法投棄があとを絶たず、不燃ゴミに電子機器が混じる」からだ。横浜市では、粗大ゴミでノートパソコンが出てくることは、ほとんどないという。「デスクトップは、さすがに大きいので粗大ゴミで出てくるが、ノートの大半は不燃ゴミに混じって出てくる。自治体では、一般の不燃ゴミのなかからノートを探し出して分別することは不可能。そのまま潰して、燃やしてしまうしかない」と肩を落とす。

 「混ぜればゴミ、分ければ資源。混じる前に回収するのがリサイクルの基本。ノートは垂れ流し、デスクトップは不法投棄では困る」。

 「この30年間、ゴミの発熱量は増える一方で、焼却炉の痛みが激しい。電子機器は燃やした時にどんな有毒ガスが出るかよく分からない。ダイオキシン問題は極めて深刻だ。また、燃やしたあとは必ず『灰』が出る。この灰の処理にカネがかかる。電子機器の灰は、少なくとも紙よりは複雑なものが入っている。正直言って、何が混じっているか分からない」と不安を顕わにする。

 「自治体のゴミ行政とは、どうしても処分できないものを最低限回収するというもの。土地に余裕がある地方では、生ゴミを自然分解する仕組みを導入している家庭が多い。都会では無理なので、自治体が回収する。しかし、家電やパソコンなどは、本来、ゴミにしなくてもいいものだ。回収してリサイクルできる。メーカーや業界は、この点をどこまで理解しているのか」と、語気を強める。

 パソコンリサイクルは、われわれコンピュータ業界に多くの「考える機会」を与えてくれた。「コンピュータ・IT業界は、さすがに進んでいる」と言われるリサイクルシステムが構築できるかどうか――。業界の真価が問われている。(安藤章司)
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