Skill upへの挑戦 これからのIT人材育成
<これからのIT人材育成>第8回 マクロな専門家を養成
2002/02/25 16:18
各社各様の人材育成
資格とうまくつきあう
■多様なスキルを求める 企業の人材育成戦略は大きな転換点にある。ミクロからマクロへ。開発の現場から経営の現場へと社員の活躍のフィールドは確実に拡大している。それにともない、求められるスキルも多様になっている。
メインフレーム全盛の時代であれば、情報処理技術者関連の資格をもち、開発現場で経験を積むことが技術者としての成長のスタンダードだった。
しかし、90年代初頭、企業の基幹システムはオープンシステムに移行し始め、マイクロソフト、オラクル、SAPなど特定のアプリケーション・ベンダー製品をいかに全体のシステムの中に組み込んでいくか、という開発手法が主流となった。
そこから、95年頃、ベンダー独自の資格制度が全盛時代を迎える。マイクロソフトの製品を扱うなら、マイクロソフト独自の資格認定制度を利用し、より上級資格を獲得することが、商談成立の早道ともなった。ほかのベンダーについても同様である。
SIerによっては、部署ごとに資格獲得人数の目標設定を行い、獲得者には一時的な報奨金、あるいは給与への反映という特典が与えられた。技術者の育成と資格獲得はほぼ同等の意味をもちながら、IT業界の人材育成戦略は進行していくのである。
■実戦経験とベンダー資格
しかし、その時代も長くは続かない。現段階において、取材したIT関連企業のほとんどすべてが、ベンダー資格に対しきわめて冷静な見方をしている。ベンダー資格を軽視しているのではないが、最重要視しているわけでもない。ベンダー資格とはすなわち「ある特定のベンダーの製品を扱う上での免許証のようなもの」なのである。資格を獲得すればいいというものではない。製品の性質を理解し、自社のソリューションとして自在に活用できることが最終目的であり、がむしゃらに資格獲得を目指すのは、いささかおかしなことなのである。
ベンダー資格の中には、まったくの未経験者でも書籍で勉強すれば獲得できてしまう、という性質ものもあることがわかってきた。学生でもとれてしまう。ではその学生は実際にその製品を現場で活用できるのか。多くの場合、否である。机上の知識は現場では通用しない。資格取得者の数が増加してきたことにも、ベンダー資格に対する一歩引いた姿勢がみえる。「ほとんどの人がもっている資格にどんな意味があるのか」とあるSIerは言う。真に必要な資格とはどのようなものか。資格を吟味する時代が到来した。
企業の人材育成戦略は、入社後のキャリア・パスを作成したうえで行われる。入社試験時において特定の資格あるいはスキルを要求するケースは少ないという。実戦経験が伴わない資格あるいは知識が現場でどの程度役に立つかは、企業側も十分わかっている問題だからである。
だが、学生時代において、実践さながらの環境を経験してきた人材であれば話は違ってくる。基礎の水準が高い学生は、企業側にとって垂涎の的なのだが、実際にはそう多くはない、と企業の人事担当者は溜息をつく。
ならば、学生の段階から高いITスキルを身につけさせるべきではないか、と国が本格的に検討を始めたのが、e-Japan重点計画の始まりでもある。米国の国家戦略を下敷きにしたこの計画が順調に進めば、ITリテラシーの底上げを図ることが可能となる。就職を目前に控えた学生のITに関する知識、スキルは高レベルなものになるだろう。
■センスをどう養うか
IT戦略本部の第6回会合で発表されたe-Japan重点計画、e-Japan2002プログラムの加速・前倒し案を見てみよう。発表は01年9月14日だ。同案では、「人材育成の充実」と題し、目標を05年までにIT人的資源大国になることと定めている。項目は、(1)学校教育の情報化、(2)IT学習機会の提供、(3)IT専門家等の育成の3項目である。
小学生レベルから即実践で活動可能なスキルの定着まで幅広く網羅していることが特徴で、02年の段階においてはひとまずIT教育基盤の確立を目指している。システムが盤石であれば、プログラムはスムーズに進行するはずである。
あるSIerの人材育成担当者は言う。「技術や知識は入社後でも十分間に合う。しかし、センスを養うのは非常に困難である」。キャリア・パスを作成し、目標の過程で資格取得を目指す。確かに技術的な水準は上昇していく。問題は、その人間のセンスであり、センスは学生時代の教育から醸成されるものだという。
そういう意味で、即戦力としてインドや中国の技術者を積極的に活用していく、とするSIerも少なくない。IT関連企業は人材育成戦略の成否が入社以前の環境と密接にリンクすることを痛感し始めていることがうかがえる。
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