大航海時代

<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第21話 北斎の絵

2002/02/18 16:18

 絵なんて、いくら上手に描けても、それはそれだけのものだ。写真以上に上手に描きようもないわけで、そこに描き手のアントレプレナー的要素が入らないと高い評価は得られないわけだ。

 ビジネスだけではない。芸術もまた「工夫と発想」の世界なのである。

 鉄斎に先立つこと70年、北斎(1760-1849)もまた世界をうならせた天才であった。彼の版画は、フランスの天才画家ゴッホ(1853-1890)や、ゴーギャン(1848-1903)に大変な影響を与えた。

 いま執筆している私の頭の上に、北斎の絵が掛かっている。1人の少年が木に登って富士を眺めているものだ。少年と富士山の間を流れている川の波頭が水しぶきをあげているさまが実にいきいきと描かれている。

 世の中にこんな川なんてありようはないのだが、これこそ川だ、とその実存をつかまえたところがある。それがゴッホやゴーギャンを感動させたのである。

 そこにはかつて描かれたことのない山や川や木があって、山というのは、あるいは木というのはそんなものであったのか、と人を納得させるものがある。かつて、何人も描いたことのない山河や人物がそこにはいたのである。

 これこそ、アントレプレナーの基本であり、シュンペーターの言う「創造的破壊」なのだ。そして、それが絵画の世界に、あるいは芸術の世界、大きくは人類のなかに新しい進歩を生んだのである。

 こう考えてくると、芸術だってビジネスだって同じことで、アントレプレナーたちだけが最初の栄冠を受けることになる。

 ここでふと気がついたのだが、北斎も鉄斎も「斎」でつながっていてよく似た名前である。2人が何らかの接点をもった、という証拠はないが、天才というのは時として同じような想いに駆られるのかもしれない。(復興なった神戸メリケン波止場にて)
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