IPO後の財務施策
<IPO後の財務施策>12.スターツ出版
2002/01/28 16:18
週刊BCN 2002年01月28日vol.926掲載
読者ターゲットとなっている20代OLには、社名よりもむしろ雑誌名のほうに圧倒的な知名度がある。スターツグループは、もともと東京都江戸川区に拠点を置く不動産の売買や分譲、建設などを手がけるスターツ(平成元年に店頭登録、現在のジャスダック市場上場)を核に、賃貸の「ピタットハウス」など、出発は江戸川区内への転居者などを中心にライフプランを提案する過程で、現在までに証券会社を含む18社の企業グループを形成していった。
出版とは無縁にも思われがちな同社の歴史は、設立された1983年3月まで20年近くもさかのぼる。新しく転居してきた世帯に向けて、サービスの一環として生活に欠かせない地元情報の提供を始めたのが出発点。今では珍しくはなくなったフリーペーパーの先駆けとなる地元情報誌の「アエルデ」は、いまや江戸川区のほとんど全域の世帯に新聞の折込みで配られている。
当初の地元情報誌から発展したレジャー誌「オズマガジン」は1987年6月の創刊。販路をもたない同社は苦戦を強いられた。同じころ、ペンションブームを追い風に、ペンションを販売取次店としてネットワーク化し、宿泊客に向けて販売を始めるという画期的な策に出たが、ニーズは取り込めなかった。
直販をあきらめて、通常の書店販売ルートへの高い参入障壁を打ち破って書店売りに切り替え、その後、同様のレジャー誌である「Hanako(ハナコ)」ブーム、女性誌ブームが追い風になって1995年から急速に知名度がアップ。収益も伸び始め、25万部(公称)を発行するまでに至った。
この間、「知名度のない弱小出版社の難しさを痛感してきた。経営スタイルの確立とともに、次の展開をスムーズに運ぶためにもIPO(新規株式公開)による企業価値の増大を目指してきた」(金子弘・財務部部長)。
IPOにより、取次店に対する信用が大きく変わったほか、知名度の上がった雑誌だけではなく、広告代理店に対する企業としての価値にもプラス効果が生まれたという。
情報誌ならではの新鮮なコンテンツ(情報)を維持するための人材確保も、上場企業という信用はメリットが大きい。長い苦難を乗り切ってきた同社が、ようやく踊り出た桧舞台からさらなる発展を見せ始めている。(マーケットウォーク 鮎川 良)
- 1