OVER VIEW

<OVER VIEW>構造改革的リストラで再生目指す国内ITメーカー Chapter2

2002/01/14 16:18

週刊BCN 2002年01月14日vol.924掲載

 わが国有力ITメーカー決算の極端な不振は世界的半導体不況と、これも世界共通のサチュレーション(飽和)によるパソコン出荷の大幅な減少が要因である。半導体不況やパソコン減少はわが国メーカーだけでなく、IBM決算にも大きく影響している。しかし、IBMと国内メーカーを比べると、IBMは伸びるITサービスとソフトできわめて高い利益率を確保していることが判明する。日本のメーカーがIBM並みの高利益体質に転換するには、ITサービスの利益率を高めることが重要なポイントとなる。(中野英嗣●文)

原因は半導体とパソコン不振

・大赤字の電子デバイス部門

 01年9月中間決算で国内ITメーカーは大幅な減収で、日立製作所、東芝、NEC、富士通、ソニー、松下電器産業などはそれぞれ巨額な純損失に陥った。富士通は1747億円、日立は1105億円、そしてNECも298億円という赤字である。このように国内有力メーカーがこぞって巨額赤字に陥った最大の原因は、世界的不況に苦しむ半導体の電子デバイス部門の大幅な売上減少とこれにともなう赤字である。各社の部門別売上高と営業利益の前年同期比を見ると、半導体不況がわが国ITメーカーの中間決算を直撃したことが判明する。各社のIT部門と電子デバイス部門の売上高と営業利益の前年同期比が、この事情を明確に説明する(Figure7)。

 売上高前年同期比で日立IT部門は4.6%増であったが、NECのIT部門は4.5%減、富士通も微小ながら1.3%減となった。IT部門の営業利益前年同期比で日立は18.4%増と大きく伸びたが、NECは36.9%減、富士通は28.6%減という減益となった。

 このIT部門に比べると、各社電子デバイス部門の減収、減益幅はきわめて大きい。売上高は日立で24.3%減、NEC33.7%減、そして半導体外販比率の小さい富士通も19.4%減である。また同部門営業損益の前年同期比は、前年が黒字、01年が赤字のため軒並み比率がマイナス100%を越え、日立は182.3%減、NEC192.2%減、富士通も162.8%減となった。

 この傾向はわが国だけでなく米国でも同じだ。IBMはITサービス、ソフトとサーバーなどエンタープライズシステムは前年比プラスで堅調に推移したものの、半導体OEM販売を含むテクノロジー売上高は微減であったが、営業損益で赤字となったためその前年同期比は120.9%減となった。またIBMパソコン部門も売上高が、16.0%減と大きく落ち込み、前年の赤字から脱却できなかった。

・伸びるサーバーパソコンは不振

 富士通、NECのIT部門の商品売上高、営業利益は前年同期比でどのように推移しているのか。富士通のソフト、サービス合計のノンハード売上高前年同期比は4.1%増、売上高比5.0%の営業利益を計上した。しかし同社ハード部門である情報処理売上高前年同期比は7.3%減である(Figure8)。

 この内訳は、パソコンが16.5%減、パソコンに付属するハードディスクも21.1%減であったが、サーバーは逆に10.7%も伸びた。同じようにNECソリューションズ商品別売上高前年同期比で見ると、SIサービス・ソフトは26.7%増と大きく伸び、インターネットサービスは9.6%増、サーバー/ストレージ/ワークステーションも17.5%増と大きく伸びた。これに対しパソコンは24.4%減と大きく落ち込んだ(Figure9)。

 こうしてみると、わが国を代表する富士通とNECでは同じような決算状況であることがわかる。すなわちITサービスやハードのなかでもサーバーは2ケタ成長と堅調であるにもかかわらず、パソコンがIT部門収益を悪化させているのだ。これに対し日立IT部門ではパソコンのウエイトが低く、サーバー、ストレージが堅調であるため、増収増益となった。こうしてみると、世界的な半導体不況は、この事業をもつITメーカー決算を極度に悪化させ、またパソコンは世界的にITメーカー決算の足を引っ張ることになった。

・経営指標格差大きいIBMと富士通

 国内市場ではパソコンは不振だが、UNIXやインテルベースのサーバーは堅調である。これに対し米国市場では、サーバーも不振である。このため外販半導体をもたないHP、コンパック、サンなどが大幅な減収減益となっている。米国で堅調なのはITサービスだけである。

 いずれにしても、これから世界のIT市場のけん引者はITサービスであることは広く認識されている。従って、これからITメーカーの優劣は全売上高に占めるソフトとサービスのノンハード構成比が重要になる。ノンハード売上構成比でIBMは56.6%と他社を圧倒する(Figure10)。

 IT部門だけで見ると、富士通、日立はともにノンハード構成比が50%を越えている。これに対し、米コンパック以下の有力メーカーのITサービス構成比は極めて低い。

 IBMの2001年9月の9か月決算では、IBMサービスが3兆3381億円(1ドル120円換算)に達し、IBMが長らく得意としてきたメインフレーム、ストレージなどのエンタープライズシステムの3倍近くになっている(Figure11)。

 この巨額売上高になったITサービスの税引前利益も4497億円で利益率も13.5%と極めて高い。IBMサービス部門は売上高、利益の両面でIBM全社の収益を支えているのだ。またIBMのソフト部門にも注目すべきだろう。その売上高はエンタープライズシステムに若干劣るものの、税引前利益は401億円で、利益率は20.3%とサービスをも圧倒する。IBMサービス売上高前年同期比は7.8%と高いので、サービスがIBMの巨額売上高伸長を支え、ソフトがIBMの高い利益率を維持していることが判明する。

 さて、富士通とIBMの利益率の大きな格差はどこから生じているのだろうか。それには両社のセグメント別売上高倍率を比べると、1つの解答が得られるだろう(Figure12)。

 まずコンピュータハード売上高でIBMは富士通の2.2倍である。これに対しサービスは2.3倍とハード比並みであるが、ソフトは4.7倍で、この2つを合算したノンハード売上高でIBMは富士通の2.7倍である。しかも、ITサービス、とりわけソフトでIBMの利益率はきわめて高い。ともに高い利益率のサービスとソフトで富士通はIBMに大きく劣っており、この富士通の弱点はわが国ITメーカーに共通だ。

 従って、わが国ITメーカーは比較的売上高が大きいITサービスでどのように高い営業利益率を確保するかが、高利益体質へ転換する際のきわめて重要な戦略になる。
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