視点

SCMの限界

2001/12/24 16:41

 シスコシステムズは、今年3月に数千人の人員削減を含むリストラ計画を発表し、5月には上場以来初の赤字決算を発表した。純損失は約30億ドルで、過去3四半期分の純益の合計より大きかった。赤字の最大の要因は、過剰在庫の償却(22.5億ドル)だと報道されている。なぜ、これほどまでの過剰在庫が発生したのだろう。インターネットの拡大とともに成長を続けてきたネットワーク機器市場は、今年に入ってその成長に急ブレーキがかかった。何年も順調に成長を続けてきた市場が突然縮小すれば、過剰在庫が発生するのは当然のことだと思うかもしれない。

 だが、シスコは、最先端のSCM(サプライチェーンマネジメント)システムとネットを駆使した販売、顧客管理によって業績を伸ばしてきた「超」優良企業である。シスコが2-4月期に償却した過剰在庫の大部分は部品在庫であり、その量はなんと2か月分以上という計算になる。最先端のSCMシステムを利用している企業で、これだけの過剰在庫が発生することがあるのだろうか。

 理由の1つは、SCMシステムに対する過剰な信頼である。ナスダック総合株価指数が5000ポイントを超える最高値をつけたのが2000年3月であり、00年夏以降、ドットコム企業の破産やウェブサイトの閉鎖が相次いだ。また、00年夏には通信機器市場に危機的な兆候が現れていたというアナリストもいれば、00年秋にはいくつかの通信機器メーカーが景気後退を予測して業績予想を下方修正していたという話もある。しかし、シスコは自社のSCMシステムを信頼し、右肩上がりの需要予測にあわせて部品調達を進めていたのである。

 もう1つの理由は、99年から00年にネットワーク機器市場が急拡大して部品需要が逼迫した時、製品納期に遅延が生じないように、部品在庫を積み増すと同時に、部品メーカーに対して製造した部品は必ず買い取るという戦略を採用したことにある。どんなに優れたシステムであっても、未来を正確に予測できるわけがない。そもそも、コンピュータには、景気や市場の微妙な変化を肌で感じることができるような能力は備わっていない。経営陣は、ディスプレイ上の窓に表示される数字だけでなく、部屋の窓の外にも注意を払う必要がある。
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