【1980年代のIT】パソコンの利用形態

ビジネス処理で開花(第1回)

1981/10/15 16:04

週刊BCN 1981年10月15日vol.1掲載

 1チップ・マイクロ・プロセッサをCPUとして実装したパーソナル・コンピュータ(通称パソコン)の利用形態は、いまや大きく変ろうとしている。ホビイストを中心の市場としてきたパソコンは、オフィスにおける事務生産性の向上を目ざすOA概念を具現化する最も重要な武器として、大きな注目を集めている。パソコンはその構成からして従来の普及型の安価(価格レンジ400~500万円)なオフコンをより小型化してデスクトップ・タイプにまとめられたものであり、その機能・性能はこれらオフコンとほぼ同一である。性能、機能面からパソコンとオフコンの差異を論じると、議論はきわめてややこしくなる。筆者はこの差異をむしろベーシックなソフトウェアの面から捉えたい。(システム・アナリスト 中野 英嗣)

 パソコンは、ほぼ全機種統一的に米国マイクロソフト社が開発した「マイクロ・ベーシック言語」と、ディジタル・リサーチ社が開発したオペレーティング・システム「CP/M」が利用できるようになっている。世界最大のメイン・フレーマーであるIBMですら、パソコン・フィールドに最も後発メーカーとして参入するに当たって、この両ソフトウェア会社の基本ソフトウェアを採用したことでも、パソコンの特長の一つをここに捉えることができることを証明している。

 このことはパソコンはオフコンとは異なりアプリケーション・プログラムの大きな流通市場が形成されることを意味する。従来のオフコンは異なるメーカーの機種はもとより、同一メーカーの機種間ですらソフトウェアの互換性を欠く場合が多く、各ユーザーは、アプリケーションの開発において相当な費用・要員両面にわたっての負担を強いられてきた。

 オフコンの場合は、異機種で利用されているアプリケーションプログラムは使用することができなかったのに対し、パソコンは異機種で開発されたプログラムを場合によってはそのまま、修正を必要としてもごくわずかの手間でこれを実行することができる。

 こうなるとパソコンを利用するためのプログラムの入手は、

 (1)出来合いのアプリケーションを流通市場より買い求める
 (2)利用者自身で作成する
 (3)外部ソフトウェア・ハウスへ開発依頼する

 などの手段が考えられるが(1)のケースが市場の発達に伴ってますます多くなることが期待されている。

 またパソコンではベーシック。言語のほかに主として作表用の簡易手順が数多く開発されている。米国のビジカルク、ソード電算機システムの開発したPIPSなどがその代表であるが、こうなるとオフコンとは異なり、利用者自身がアプリケーション・プログラムの開発に直接的にたずさわることが極めて多くなる。

 パソコンに本格的にとり組もうとする人々は、ベーシック言語を修得し、そこまで行かずとも簡単な作表業務をパソコンでこなしたい人は簡易手順を修得すればよい。パソコンはあくまでも個人が自己の日常業務をシステムム化するのに使われるのが本来の目的である。そうなると対象業務の選択、簡易システムの設計、プログラムの開発・調達は自己が中心となって推進しなけわばならない。専門の担当部署や担当者が置かれる従来のコンピュータ利用形態とは全く異なる環境下で利用されるものであろう。

六つの利用形態


 このような特長をもつパソコンの利用分野を見渡してみよう。もちろん、ここではプロセッサとしてのマイコンではなく、標準的入出力機器やファイル機能を備えたシステムとしてのパソコンを考える。第一は小規模企業におけるパソコンの利用である。とくに商店レベルにおけるパソコンの利用をあげることができる。

 新聞販売店、金物工具販売店、クリーニング店、化粧品店という例は多くなっている。ホビイスト市場の次に育成されたパソコンのこの市場での利用形態は極めてオフコンと類似している。これら商店は従来の価格レンジのオフコンを導入できる企業規模ではなく、オフコン価格の3分の1で導入できるパソコンをオフコン代替物として利用するのである。

 パソコンのファイルには、その店の顧客マスターや在庫マスターが格納される。これらのパソコンには基幹ファイルが登録され、顧客管理、とくに請求書の発行というような基幹事務が処理される。これらの業務は小なりといえども組織としてのルーチン業務であり、まさしくベリー・スモール・オフコンとして利用される。ただしアプリケーションは、ソフトウェア流通市場での調達、あるいはメーカー開発のパッケージを利用する場合が多く、デイラー・メイド方式のオフコンとは異なる。

 第二は大学、研究所を主体とした個人レベルでの計算機としての利用分野である。小規模の科学技術計算、統計解析、シミュレーションという分野に使われ、代表的なプログラムは市販の書籍を購入し、その例題として記述されているベーシック・プログラムをそのまま入力すれば直ちに実行でき、パーソナル・ユースのコンピュータとして典型的な利用分野である。

 第三はメカトロニクス等での利用である。例えば従来の計量器等と連動してパソコンを利用するケースが目立ってきた。出荷業務処理の自動化としてスーパーの加工センターなどでは、大きな威力を発揮し始めており、この分野でのパソコンの利用は計測器等の連動と合わせて大きな市場に成長しよう。第四はTSS等のインチリジェント・ターミナルとしての役割である。従来の非インテリジェント端末と価格差がなければ、自己プログラム機能とファイル機能を有するパソコンが、従来のそれをリプレースするのは明確な事実である。

大企業から普及が始まる


 第五は一定規模以上の企業における数値情報処理のための個人利用のためのパソコンである。これこそがこれからの本格的なパソコンの利用分野であり、今後極めて急速な需要の拡大が見込まれる。現在各企業の情報処理システムは、社内エンドユーザー主導型の分散情報処理システムの構築。と、従来情報処理システムの守備範囲外であった非数値情報処理のシステム化を目指して急速に変化している。

 分散処理システムにおけるワークステーションが数多く設置されようとも、分散処理でカバーし得る業務範囲は自ずと限定される。その範囲は企業組織としてのルーチン業務が対象であり、個人レベルのルーチン業務まではプログラムの開発力、ファイル・デザインの困難さからカバーできない。

 分散処理は一定量以上のデータ量があり、かつ各部門共通のデータ・ベースを必要とする業務を対象とする。この対象からはずれた個人のルーチン業務(計画業務、予実対比、物品管埋、ファイル管理、状況管理等々)は各担当者の責任のもとでパソコンにその処理の自動化を求めざるを得ない。オフィスにおける個人ユースのパソコンは、その一利用者との間では当面ワンマシン・ワンジョブが原則であろう。その担当者にとって最も急を要する業務を対象にすべきだからである。

 大企業のオフィスにおけるパソコンの利用形態としては、従来の分散処理。ネットワークとはまったく独立したスタンド・アロン・タイプとネットワークのワーク・ステーションとしても利用されるオンライン・タイプがあり、後者はオフィスにおける分散処理とパソコン両立の整合性を追求される。第六への利用は非数値情報処理システムの役割であり、漢字機能の搭載と共にパソコンの利用分野として開拓されるものであり、これからの課題となろう。

〈編集部〉

 筆者は現在、コンピュータ・メーカーに籍を置いている。そのため立場上でペンネームとしたが、それ以上にメーカー名を示すことで、原稿の第三者的立場が揺らぐことを避けた。パソコンの利用形態はシステム提供者側のスタンディング・ポイントによって、強調されるところが大幅に異なるためである。パソコン利用は、緒についたばかりである。パソコン販売で利益をあげるための確かな方向は今のところ定まっていない。原稿に対するご質問、ご要望を編集部までお寄せ下さい。筆者が紙面でお応えじます。
  • 1