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コンピュータソフトウェア著作権協会、「AIと著作権」をテーマにパネルディスカッションを開催

2025/04/17 09:00

週刊BCN 2025年04月14日vol.2055掲載

 生成AIを用いることで、誰もがコンテンツやソフトウェアを制作できる時代となったが、生成AIの使用は他者の著作権の侵害につながる思いがけないリスクもはらんでいる。コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)は3月17日、AIと著作権をテーマにしたパネルディスカッションを開催した。政府のAI政策担当者が生成AIの利活用に向けた行政的な取り組みを紹介したほか、業界関係者・有識者が生成AIの商用利用と知的財産保護の関係について議論を展開した。
(取材・文/日高 彰)

技術開発と権利保護を定めるAI法案

 ACCSはAIと著作権を巡るパネルディスカッションを2024年11月からシリーズ形式で継続しており、今回は3回目の開催。基調講演では政府担当者を初めて招き、生成AIの法的位置付けの解説が行われた。
 
内閣府 中越一彰 参事官

 まず、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局AI制度審議室の中越一彰・審議官が「我が国のAI制度について」と題し、AIの政策の全体像を説明した。

 国のAI政策の基本法となることを目指す「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案(AI法案)」が、2月末に閣議決定され国会に提出された。内閣府のAI戦略会議のもとで具体的な制度のあり方を議論する「AI制度研究会」では、国内ではAIのリスクに対する不安が大きく、諸外国に比べAI活用が遅れている、との認識が示されている。

 中越審議官は「世界で最もAIを開発・活用しやすい国を目指す」とし、国民が安心してAIを活用できるようにすべく、世界のモデルとなるような制度設計を早急に進める考えを強調。AI法案では国と民間が連携してAIの研究開発を推進することに加え、権利侵害に対して国が調査、指導を行う仕組みを用意することなどが規定されている。

文化庁はチェックリストを公開

 続いて、文化庁著作権課の持永新・課長補佐が登壇し、著作権法上の生成AIの位置付けについて基本的な考え方を説明した。
 
文化庁 持永 新 課長補佐

 AIモデルの開発においては、学習の段階で著作物を含むさまざまなデータが複製されることになる。著作権法第30条の4では、大量の情報から要素を抽出し解析する用途の場合は、著作者の許諾を得ることなく利用可能であることを規定しており、AI開発における学習もこの用途に相当すると考えられている。

 一方、開発したAIを利用して生成したコンテンツについては、AIを使用せず作成したものと同様に著作権侵害が判断される。AIの利用者が既存の著作物を認識したうえで、それと類似したコンテンツをAIを使って生成し、ネット上にアップロードした場合は、著作権侵害となる恐れがある。持永課長補佐は「AI開発・学習の段階と、生成・利用の段階では、著作物の利用行為が異なる」とし、双方を分けて考える必要があると解説した。

 文化庁では、AIの開発者や、AIを利用する企業や個人が著作権上のリスクを低減できるよう、「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」と題する文書を24年7月に公表した。他者の著作権を侵害しないかたちでAIを使用するには何に気をつけるべきか、また、クリエイターや開発者が自分の権利をどのように保全できるかがまとめられており、実務者にとっても有用な情報となっている。

学習データの透明性がかぎに

 基調講演に続いて、ビジネスでの生成AIの活用についてパネルディスカッション形式で最新動向の紹介と意見交換が行われた。

 米Adobe(アドビ)日本法人のマーケティング本部セグメントマーケティング部で、同社のクリエイティブツール「Creative Cloud」を担当する轟啓介・マーケティングマネージャーは、商用コンテンツの作成においても安全に使用できる生成AIの「Firefly」を説明。Fireflyは権利者から許諾を得たコンテンツや、すでに著作権が失効したコンテンツのみを学習しており、著作権侵害のリスクを排除している。また、同社ではデジタルコンテンツの制作者を証明できる仕組みである「Content Credentials」の普及にも注力しており、AI使用の透明性を確保しているという。

 システム開発などのITサービスを提供するピーエスシーの福島孝之・取締役は、自社の業務をAIで効率化した事例や、公的機関のWebサイトに掲載された税制に関する情報を収集し、AIが税務相談に回答するチャットボットなど、IT企業における生成AI活用の取り組みを披露。また、納品物に添付するドキュメントに掲載する図版を生成AIで作成することで、有償の画像素材を用いなくてもグラフィカルな文書を仕上げられた事例なども紹介した。一方、今後顧客に納入するソフトウェアの開発にも生成AIの使用を拡大すると、著作権の問題が生じる恐れがあり、慎重な検討を要することを指摘した。

 知的財産の分野で多くの実績がある三村松法律事務所の田邉幸太郎・弁護士は、生成物を商用利用する前に既存の著作物と類似していないか調査するといったように、生成AIの利用にあたっては利用者のリテラシー向上が求められるとした。学習データが明らかになっていないAIによるコンテンツやソフトウェアの生成にはリスクを伴うため、今後はデータセットの開示や透明性に関する議論が活発化するとの見方も示した。

 過去3回の講演録と動画はACCSのWebサイトで公開されている。
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外部リンク

コンピュータソフトウェア著作権協会=https://www2.accsjp.or.jp/

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