週刊BCNは8月9日、札幌市内で地場のSIerやIT製品販売会社を対象にしたセミナー「週刊BCN 全国キャラバン2024 in 札幌」を開催した。IT資産管理、ERP、業務プロセス管理、セキュリティー製品を提供するソリューションベンダー5社が自社の製品・サービスを紹介したほか、有識者による生成AIやSIビジネスをテーマにした講演が行われた。
生成AIの利用について企業でも議論を
基調講演には元NHK解説主幹で、日本科学技術ジャーナリスト会議の室山哲也会長が登壇し、「生成AIの衝撃! 人工知能時代をどう生きるか」と題して、生成AIの活用に企業がどのように向き合うべきか、ジャーナリストの立場から見方を示した。室山会長は、生成AIが札幌をテーマに作曲した音楽や、人間としりとりをしながら詠んだ俳句などを披露。人間が制作した作品と遜色ない仕上がりのものもあると紹介し、「人間はAIと異なり創造性があるといわれることがあるが、人間もAIも過去の作品やいろいろな情報を取り込んで新しい作品をつくっている。創造性とはいったい何か」と指摘。科学者に話を聞いても、人間独自の創造性を定義することは困難だったという。
日本科学技術ジャーナリスト会議
室山哲也
会長
室山会長は取材を重ねる中で、「社会に出て問題を発見し、その解決のため目的地を決めること」は現在のところAIには不可能で、人間にしかできないと結論づけた。AIと人が情報を共有しながら、人間が決めた目的地に向けた仕事をしていく形で強力すれば、AIは良き相棒になれる。また、生成AIは過去の情報をもとに、平均的で中央値に近い回答を出してくるため、これからはより個性が強く、平均から外れた人の価値が高まる可能性があるとも述べた。現在のAI技術の進化は非常に速いため、人間が幸せになるためにそれをどのように開発し、活用していくべきかを早急に議論しないと危険だと警鐘を鳴らす。企業活動の中でも折に触れて、AIを話題に挙げ話し合ってほしいと参加者に呼びかけた。
クラウドとオンプレミスを比較・検討できるIT資産管理製品
ディー・オー・エスの営業企画部の山本桂・課長はIT資産管理ツール「SS1」シリーズを紹介。販売パートナーから同製品が評価されている点として、クラウド版とオンプレミス版の両方が用意されており、顧客の意向に応じてそれぞれを比較しやすい形で提案できることを強調した。SS1は2000年にパッケージソフトとして発売された製品で、「Excel」感覚で操作できる画面を通じて、企業のIT資産全体を一元管理できる。ライセンスは個別の機能ごとに購入できるので、必要な機能だけを導入しコストを抑えられるのも特徴。
ディー・オー・エス
山本 桂
課長
山本課長は「先に発売したオンプレミス版のほうが機能は充実しているが、クラウド版の機能追加も急ピッチで進めている」といい、ニーズの高い機能についてはクラウド版も遜色ない水準になりつつあると説明。これまでExcelベースで資産管理をしており、初めてツールを導入したいと考える企業などからは、構築の手間がないクラウド版のニーズが高まっている。また、ヘルプデスク対応サービスも用意しており、本採用前のトライアル段階からヘルプデスクを利用可能。販売パートナーからは“手離れ”が良い商材であることも好評だという。
複数のSIerのエコシステムでERPビジネスを伸ばす
GRANDITの事業統括本部の高橋昇・副本部長は、ユーザー系SIerが集まって開発したことで誕生したERP「GRANDIT」を紹介し、パートナーエコシステム強化に向けた取り組みを説明した。GRANDITは、製造・商社・ITなどの事業を営む企業を母体に持つ、複数のユーザー系SIerがコンソーシアム型で開発したERP製品で、2004年に最初のバージョンが発売された。企業が各部門ごとの業務を効率化するだけでなく、業務プロセスをきちんと連携させ、事業活動全体を一つのマスターデータとして管理することで経営を可視化するERPのコンセプトが受け入れられ、発売から約1年でユーザー企業が100社を超えるなど、基幹システムとしては早いペースで顧客を獲得。現在は1400社以上が導入しているという。
GRANDIT
高橋 昇
副本部長
より小規模な企業でも利用可能なクラウド版ERP「GRANDIT miraimil」も提供しており、導入に年単位・億円単位の時間やコストがかかると考えられていたERPのイメージを変えようとしている。高橋副本部長は、ITベンダーのビジネスについて「1社だけでユーザー企業の課題を解決するのは困難」な時代になっていると指摘。GRANDITは異なるSIerが参画して開発した製品であり、一見すると競合関係にある企業同士が事業を進めるのは難しいように思われるかもしれないが、実際には、自社だけでは対応できない依頼について、エンジニアや案件を融通し合うなどしてビジネスを拡大してきたと説明。ITベンダーがGRANDITのエコシステムに参加するメリットをアピールした。
企業や業種ごとの業務管理の課題を解決
Smartsheet Japanの栗原絵里子・プリンシパル・チャネルアカウントマネージャーは、業務プロセスやプロジェクトの管理を効率化する「Smartsheet」を紹介した。SmartsheetはWebブラウザで利用でき、Excelに近いユーザーインターフェースを持つ業務管理サービスで、人手での管理の限界や、業務の属人化など、仕事の工程の管理に関する悩みを解決できるソリューションだという。委託先の外部業者が参加するプロジェクトでは、外部ユーザーがアクセスするアカウントの費用をまかなえなかったり、外部との情報共有にポリシー上の難しさがあることも多いが、Smartsheetは社内ユーザー分だけライセンスを購入すればよく、情報の見せ方をユーザーごとに細かく制御可能な点も特徴としている。
Smartsheet Japan
栗原絵里子
プリンシパル・チャネルアカウントマネージャー
既にExcelで管理している業務があれば、そのファイルをインポートすることですぐにSmartsheetによる業務管理を始められるほか、多くの企業で標準的に行われる業務については豊富なテンプレートが用意されている。また、栗原マネージャーは、同社はサービスの販売を100%パートナー経由としていることを強調。「パートナーが独自のテンプレートを付加価値として提供することも可能」し、パートナーがユーザー企業や特定の業種ごとに最適な使い方を提案できるのも、商材としての魅力につながっていると紹介した。
ランサムウェアが狙う脆弱性に有効な対策
カスペルスキーの法人営業本部東日本営業部の鈴木知郎・エンタープライズアカウントマネージャーは、近年多くの被害が伝えられているランサムウェア攻撃の最新動向と、セキュリティーソリューションの新製品「Kaspersky Next」を紹介した。鈴木マネージャーは「過去であれば国家を背景とする諜報活動グループが使うような手法や情報を、小規模な攻撃者が扱うようになっている」と延べ、サイバー攻撃に必要なツールや情報が、ブラックマーケットで容易に入手可能になっている現状を指摘した。脆弱性の修正を行わずにVPN機器を使用し続けている企業のリストなども流通しており、管理の行き届いていない中小企業が被害に遭うケースも増えているという。
カスペルスキー
鈴木知郎
エンタープライズアカウントマネージャー
このような状況のため、システムのどこかに脆弱性が含まれる企業は攻撃者グループに狙われやすい。しかし、端末からネットワークに至るまでさまざまなIT機器がある中で、あらゆる脆弱性情報を管理者が把握し、すべてにパッチを適用するのは現実的ではない。Kaspersky Nextでは、従来のエンドポイント保護に加え、最も安価なエディションでもEDR(Endpoint Detection andResponse)機能を提供するほか、危険性の高い脆弱性を優先的に通知し、自動的にパッチを適用するなど、脆弱性に対する対策を手厚くしている。運用支援サービスも用意しているので、専任の管理者がいない中小企業にも提案しやすいソリューションになっているという。
脅威ハンティング
TeamT5の横田智成・シニアセールスエンジニアは、同社が提供する脅威ハンティングツールの「ThreatSonar」を紹介。サイバー攻撃対策では、システムが侵害を受けることを未然に防止するのに加えて、自社が侵害を受けていないことを確認したり、万が一侵害を受けた際に影響範囲を特定し、対応後に健全性を回復したことをチェックするのも重要なプロセスになる。このような作業を支援するのが脅威ハンティングツールで、横田シニアセールスエンジニアは「脅威ハンティングは、パンデミックにおける抗原検査に相当する」と説明する。
TeamT5
横田智成
シニアセールスエンジニア
TeamT5は台湾に本社を置くサイバーセキュリティー企業で、台湾ではマネージドセキュリティーサービス事業者の9割以上がThreatSonarを使用し、圧倒的なシェアを得ているほか、東南アジア諸国でも販売を伸ばしている。支持される理由として、標的型攻撃を行うグループは中国語を使用することが多く、同社は中国語圏の脅威に特化したインテリジェンスを豊富に有していることがあるという。日本に対しても同様の標的型攻撃は頻繁に行われており、定期的な脅威ハンティングが必要と訴える。ThreatSonarは高い権限のドライバーの導入などが不要なため、既存のセキュリティー製品と競合しにくいのも特徴で、パートナーにとっては、例えばユーザー企業からの「年末までに数千台の端末をチェックしてほしい」といった要求にも対応しやすいのがメリットだと説明した。
ニアショア開発で注目高まる北海道
セミナーの最後に行われたBCNセッションでは、「週刊BCN記者が聞く、北海道ITビジネスの今とこれから」と題し、札幌に本社を置き、Webアプリケーション向けライブラリーの「React」などを活用したシステム開発を行うインプルの西嶋裕二・代表取締役CEOを招き、本紙記者が北海道のITビジネスの現況と今後について聞いた。西嶋CEOは、「北海道のIT企業のうち半数は道外の企業と取り引きしているとされる。円安によって海外へ開発を委託するオフショア開発のコストメリットが縮小したことで、北海道は相対的にニアショア開発拠点としての需要が増している」と説明。リモートワークの普及は顧客獲得や人材採用の面で地理的な制約から解放される利点がある一方、営業も採用も全国の企業が競合になるという厳しさもあるとした。
インプルの西嶋裕二・代表取締役CEO(右)に
記者が対談形式で話を聞いた
北海道ではRapidusの大規模な製造拠点建設が話題となっているが、理系の学生が半導体産業へと流出することで、IT企業にとって短期的にはデメリットの影響が大きいと予想される。ただし、半導体サプライチェーンに直接/間接的に関係する地元企業が恩恵を受けることで「中長期的には道内の経済にプラスになる。システム開発ビジネスが潤うのはまだ先と考えられるが、そのときに備えて技術力の向上や人材の拡充を図っていきたい」(西嶋CEO)とコメントした。