米Qualtrics(クアルトリクス)の日本法人は2月17日にビジネス戦略発表会を開催し、2023年の事業戦略とEX(Employee Experience=従業員エクスペリエンス)に関する最新のトレンドを発表した。
先行きの不透明さがXMの追い風に
同社のグローバルにおける22年12月期の通期決算は、総売り上げが前年比36%増の14億5900万ドル、その内サブスクリプションが同41%増の12億2400万ドルだった。また、100%以上であれば良好とされる売上継続率では120%を達成した。同年度の日本法人の取り組みとしては、東京オフィスの移転、国内データセンターの稼働開始、大阪オフィスの開設など事業体制の強化が目立った。製品面ではブランド エクスペリエンス リサーチサービスや、各領域のエクスペリエンスをクロス分析できるモジュールなどを新たに展開した。
熊代悟
カントリーマネージャー
日本法人代表を務める熊代悟カントリーマネージャーは「先行きが不透明で将来予測が困難な時代こそ、さまざまな方の声を聞き、適応していくことが求められる。エクスペリエンスマネジメント(XM)はさらにミッションクリティカルなものになっていく」と事業の展望を示した。米国本社にあるXM Institute(XM研究所)がグローバルで1300人以上のシニアエグゼグティブに実施した調査でも、エクスペリエンス管理の成熟度と業績に強い相関関係が確認されているという。
新規・既存顧客ともにパートナー戦略が重要に
23年度の事業戦略として掲げるのは、「継続的な新規顧客の獲得」「既存顧客における利用範囲の拡張」「国内での認知向上に向けた活動強化」だ。新規顧客の獲得では、営業人員の増強だけでなく国内パートナー企業との協業を強化。また新規パートナーも含めてアドバイザリーサービスを提供可能な人員を増強することで、既存顧客の成熟度も高めていく。ユーザー会やラウンドテーブル、ワークショップなどのアクティビティもさらに活性化させる計画だ。
国内での認知向上に向けた活動強化では、パートナーや顧客に向けた情報発信を拡大する。具体的には、米国で3月に実施するXMリアルイベントの日本版を8月に開催。XMに関する調査やレポートも頻度高く発信していく。熊代カントリーマネージャーは「現状のXMはデータが部門ごとにサイロ化され十分に活用されていない。個々の顧客レベルでデータが統合管理されているのがあるべき姿だ。当社ソリューションは、その先の顧客/セグメントごとのジャーニー(顧客が商品・サービスの購買に至るまでのプロセス)の最適化を目指していく」とコメントした。
世界で共通する「静かな退職」
EXに関する最新トレンドは同社が毎年発表しているもので、今回はグローバルと日本双方の調査結果に基づいて作成したレポートから、同社の市川幹人ソリューションストラテジーシニアディレクターが注目する三つのトピックを挙げた。
市川幹人
ソリューションストラテジーシニアディレクター
まず、ポストコロナが意識される中で話題にあがることが増えてきたのが「オフィス回帰」だ。調査によると「人脈づくりや信頼関係の構築」や「スキルや知識の習得」などが対面業務に期待されていることが分かった。「ただ『在宅勤務=悪』ではない」と市川シニアディレクターは指摘する。今回の統計でも完全出社者の連携やパフォーマンスは完全在宅勤務者より低い数値が出ており、一概に対面業務がリモートより優れているとは言えない結果となっている。
次に挙がったのが、米国をはじめ世界共通の問題として認識されつつある「静かな退職(Quiet Quitting)」だ。これは「退職はしていないが、仕事に対する熱意を失い、与えられた仕事以上のことをしない働き方」を指す言葉で、働き方や生き方の価値観の変化が要因であると考えられている。まだ分析が不十分なトピックではあるが、「米国では若い世代に多いが、日本では40~50代にこの傾向が強く見られる」(同)と、国ごとの違いも確認されている。
最後に挙げたのが「キャリア自律」だ。これは各自が自らのキャリアに責任を持って主体的に考え、自主的にキャリア形成に取り組んでいる状態のことを指す。日本では政府がリスキリングなどを後押ししているが、当事者の意識はまだ浸透しておらず、「将来のキャリアに関して具体的な目標を持っている」の問いに対して「非常にそう思う」または「そう思う」と回答したのは26%、「キャリア上の目標とすべき人がいる」の問いでは同24%という厳しい結果になった。市川シニアディレクターは「まずはキャリアの目標を持ってもらうことからスタートする必要がある。それが分からなければどんなスキルを身につければよいのかという部分も見えてこない」と、施策が先行している状況に注意を促した。(大蔵大輔)