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中国四川省成都市 ソフト産業は成長基調 日系企業の関わりは?
2018/09/20 12:00
週刊BCN 2018年09月17日vol.1743 第2部掲載
セキュリティーで「世界一流」へ
成都市ソフトウェア産業協会によると、同市のソフトウェアサービス産業の規模は、前年比117.3%の3544億元(約5兆7750億円)だった。中国全体の4.8%の規模を占め、15の副省級市のなかで5番目に大きかった。市内には、天府ソフトウェアパークなどの開発区があり、NECや兼松エレクトロニクスなどが進出。同協会の程宏秘書長は「成都市は、南西部で唯一の中国ソフトウェア業で有名な都市で、中国のソフトウェア産業で重要な役割を果たしている」と話した。
IT企業が集積する同市では現在、セキュリティーの発展に力を入れており、程秘書長は「国内で一流のセキュリティー産業基地をつくっている最中だ」と説明。中国の主要ベンダーなど数百社を誘致し、技術やサービスを磨いていると強調した。
四川省は、成都市を軸にセキュリティーの中心地になることを目指しており、産業規模はすでに中国でトップクラスだ。四川省人民政府によると、17年のセキュリティー産業の規模は、前年比138%の360億元。中国全土の5分の1を占め、省別では2番目に大きい規模という。
7月19日~20日には、同市で「中国ネットワーク・情報セキュリティ大会」が開かれ、全国から大学教授や企業の幹部らが集結。セキュリティー技術の応用や人材の育成などについて議論し、人材育成の面で企業や教育機関が協力する新組織「全国情報セキュリティ産教融合連盟」が設立された。
大会は、中国電子学会や四川省経済信息化委員会などが主催し、今回で3回目。主催者を代表してあいさつした中国電子学会の劉明亮副秘書長は「この大会が成都市が開かれることは、成都市がセキュリティーに強いことを示している」と呼びかけた。
さらに劉副秘書長は「現在、セキュリティーは多くの人に注目され、高速な発展と幅広い応用が進んでいる。
今後、情報技術と情報セキュリティーの重要性はより一層増すだろう」と強調。「国家の情報をきちんと守り、専門家の育成にも力を入れていく」と訴えた。
このほか、国家暗号管理局や工業信息化部の幹部らも駆けつけ、「経済が強く、大きくなるために、ネットワークとセキュリティーの発展は重要だ」「セキュリティーによってインターネットの安全が確保されなければ、国家の安全はない」などと述べ、セキュリティーに注力する四川省を後押しする考えを示した。
中国の古代遺跡を支える
成都市は、三国時代に蜀の都となるなど、中国国内でも有数の古い歴史をもつ。当時の地層から見つかった貴重な出土品を展示する金沙遺跡博物館は、NTTデータイントラマートの業務改善プラットフォーム「intra-mart」を活用したシステムで課題の解決に取り組み、一定の成果を上げている。同博物館は、07年に開館した。約5万平方キロメートルの敷地の中では太陽神鳥金箔や黄金の仮面などを中心に、3000年前とみられる出土品を展示。大規模な発掘現場もそのまま観覧できるようにしている。同博物館の職員によると、所蔵する資料は考古学的に非常に貴重という。
膨大な所蔵品がある同博物館は、15年ごろから館内のデジタル化やシステム化を進めてきた。企画展示の業務プロセスを統一したり、ウェブ上で展示したりする仕組みを構築するため、さまざまなITベンダーのソリューションを比較。そのうえで使いやすさなどを考慮し、成都楷碼信息技術(成都市)が手掛ける「博物館総合管理システム」の導入を決めた。
同博物館は、intra-martを基盤として活用し、システムを開発した。intra-martを使った理由について、楊鹏製品研究開発部部長は「intra-martを使うことで、顧客の要求に応じて素早く自由に設計でき、安全性も確保できる」と説明した。さらに、欧陽子都プロジェクトマネジャーは「intra-martは成熟したプラットフォームで、開発がしやすい。以前は開発に多くの時間を費やしていたが、現在はかなり短縮できるようになった」とつけ加えた。
システムの効果はすぐに表れた。同博物館が定期的に開催しているウェブ展覧会では、これまでは展覧会ごとにウェブページの制作を業者に依頼。完成までに約1週間の時間がかかり、制作費もかさんだ。システム導入後は、博物館の職員が撮影した写真を使い、自分たちでウェブページを制作できるようになった。職員が個々に保管していた資料の一元管理も可能になり、業務の効率化も実現した。
同博物館の職員は「システム上に写真を配置すれば、数日でウェブページがつくれる。専門的な知識がなくても操作できることに非常に満足している」とし、「今までは時間もコストもかかり、納品後の修正も簡単ではなかった。現在はシステムによって時間とコストを大きく削減することができ、修正も容易になった。資料の管理も含めて、今までにできなかったことができるようになったことは非常に大きい」と語った。
オフショア開発の行方
成都市を本拠とする成都ウィナーソフトは、日系企業向けのオフショア開発などを展開している。同社の黄雷副総裁は、日系企業向けの市場は今後も堅調に推移すると予想する一方、市場の変化に合わせて従来のビジネスモデルから脱却する必要性を感じており、「単純なオフショア開発だけでは生き残っていけない」と警鐘を鳴らしている。同社は、07年に設立し、日系企業向けのオフショア開発のほか日系IT製品の中国での販売を手掛けている。直近のビジネスの状況について黄副総裁は「17年の売り上げは約8000万元だった。日系企業向けの仕事は増えている」と説明したものの「これまで通りのオフショア開発はやりにくくなっている」と指摘した。
黄副総裁は、人件費の上昇により、「オフショア開発だけでは、利益は出ない」とし、「上流工程も含めて開発を担い、ソリューションとして提供したり、パートナーとして一緒にビジネスを展開したりすることが必要になっている」と話した。
今後の見遠しについては「中国に進出し、発展する日系企業の割合は昔より多くなっている。日系企業向けの業務はこれからも大きくなっていくだろう」と予想し、「市場の動きに合わせてビジネスモデルを変え、しっかりと成長していけるようにしたい」と語った。
日立が四川省政府と協力
四川省は現在、「『5+1』現代産業体系」と銘打つ戦略を策定し、電子情報など五つの産業とデジタル経済を発展させることを目指している。2022年までに総額8億2000万元規模に成長させることを目標に掲げている。日系企業との関係では、日立グループと、産業・流通、ヘルスケア、アーバン分野のデジタル化について協力していくことで合意し、戦略的枠組み協定を結んだ。
日立グループの発表によると、今後、中国政府・企業との協創をさらに加速させ、IoTを活用したソリューションを提供することで製造業の高付加価値化と社会イノベーション事業の拡大を図るとしている。
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