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山形県IoT推進ラボ 失敗談から学ぶIoT、AI活用 金型メーカーIBUKIの取り組みを紹介

2018/09/20 09:00

週刊BCN 2018年09月17日vol.1743掲載

 山形県IoT推進ラボは、県内製造業企業の経営者や技術者などを対象に、「ものづくりIoT・AI活用セミナー」を開いた。講師には県内の射出成型用金型メーカーであるIBUKIの松本晋一社長を招いた。同社はIoT活用の先進企業として知られ、経済産業省の「地域未来牽引企業」に選定されているほか、第7回日本ものづくり大賞「ものづくり+企業」部門で経済産業大臣賞も受賞しているが、講演では敢えてIoTやAI活用の苦労話、失敗談にフォーカスし、先進テクノロジー活用の勘所を解説した。(取材・文/本多和幸)

地域の企業は地域の先進事例を意外に知らない

 今回のセミナーの企画を主導した山形県商工
IBUKI
松本晋一
社長
労働部工業戦略技術振興課の金内秀志・産学官連携推進主幹は、「地域の企業はITによってビジネスモデルやビジネスのルールがどんどん変わっていくのを目の当たりにして焦りを感じながらも、東京しか見ていない傾向があり、地元の先進事例が意外に知られていない」との課題を感じていたという。そこで、県内のIoT活用先進企業として注目を集めるIBUKIの松本社長に依頼し、「成功事例は聞き飽きた、知りたいのは失敗例だという方に向けてIoTやAIの苦労話、失敗例を分かりやすく解説してもらうことにした」という。
 

新しい取り組みを成功させるには組織のデザインが重要

 IBUKIの前身である安田製作所は1956年に東京で設立された老舗企業だが、2008年に生産拠点を山形県に集約し、12年には本社も山形県に移した。最盛期には300人ほどの従業員が在籍していたというが、中心顧客だった家電メーカーとの取引減などにより、08年から6年連続で赤字が続き、従業員数は20人まで落ち込んだ。14年に、製造業向けコンサルを展開するO2が同社を買収し、同社の松本社長が安田製作所の社長も兼務。安田製作所が持っていたものづくりの力と先進のITを組み合わせれば再成長ができると判断し、改革に乗り出した。翌年、IBUKIに社名を変更している。

 同社の具体的なIoT、AI関連の取り組みを紹介すると、まず金型メーカーとしての付加価値を向上させるべく、金型にセンサーを埋め込み、成形中の樹脂や金型の状態を計測、そのデータを提供することで顧客の生産性向上に役立ててもらうサービスを行っている。いわば従来の本業である製造業にIoTの要素を組み込んで付加価値を生み出し、「IoTソリューションベンダー」として新たなビジネスを始めたかたちだ。また、顧客が新しい商品を企画するたびに新しい金型が必要になるというビジネスモデルの特性上、正確な見積もりを作成するためには経験が必要で、ベテラン社員の暗黙知に頼ってきたという課題もあったが、ここにAIを活用して自動見積もりシステムを開発し、外販も行っている。

 松本社長はこれらの新しい取り組みに共通する課題として、組織づくりの大切さを説いた。「会社には“言わなくてもやる”2割の人、“言われればやる”6割の人、“言われてもやらない”2割の人がいると言われるが、新しい取り組みを会社全体に波及させていく場合もこれをうまくデザインするのがポイント。当社の場合、IoTプロジェクトの立ち上げはここで失敗した。初動は言わなくてもやる2割の人に頼ればいいが、初動よりも大事なのは第2陣の人選。ここに、言えばやる人の中からIT好きの人などをうまく入れて、システム部門がつくったプロトタイプのソリューションなどを実際に使ってもらって評価してもらう体制ができると、社内の雰囲気も変わってくる。間違っても、化学反応などを期待して言われてもやらない2割を入れてはいけない」。

 また、AIを活用したソリューション開発では、対象業務の技術的難易度や経験値が要求される度合い、AIで自動化を進めることで得られるメリットの社内貢献度、社外貢献度などを総合的に判断し、「AI導入の判断基準をおおまかにでもつくることが大事」だと指摘した。また、「AIに仕事を奪われる、という現場の心理的抵抗は最初は大きいが、社内貢献度の高いAI導入を考えていくと比較的受け入れられやすい」ともコメントした。
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