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富士通 デジタルアニーラのプロセッサが8000(量子)ビット越えへ
2018/05/31 09:00
週刊BCN 2018年05月28日vol.1728掲載
年度内に8192ビットを提供
クラウドサービスとして提供が始まったデジタルアニーラは、1024(量子)ビットのDAUを搭載している。D-Wave Systemsが現在提供しているアニーリングマシンが2048量子ビットのため、半分のビット数となるが、単純には比較できない。ビット間の相関関係の高さを示す「ノード結合」、量子計算の「精度」(階調)などにおいて、アニーリングマシンはD-Wave Systemsを圧倒しているからだ。
また、富士通はすでに8192ビットのDAUを開発しており、今年度の第3四半期には提供を開始する予定だ。これにより、ビット数においてもD-Wave Systemsをリードすることになる。「アニーリングは、このプロセッサでいい。量子コンピュータは量子ゲート方式で考えている」と、富士通の山田厳英執行役員はアニーリングマシンが量子コンピュータである必要性はないとしている。
デジタルアニーラの特徴は、量子の特性を計算処理に用いる量子コンピュータではなく、デジタル回路を用いているところにある。量子のふるまいをデジタル回路上で再現して計算処理を実現した。このメリットは計り知れない。
なぜなら、現状の量子コンピュータは、計算処理を実施するにあたって、プロセッサを絶対零度近くにまで冷やす必要があることと、計算処理ができる時間が数十ナノ秒しかなく、長時間の継続的な利用が難しい。また、量子の制御技術も発展途上で、エラーの発生率が高い。アニーリング処理の性能を左右するノード結合においても、現状では制限がある。
こうした課題を克服するべく、富士通のデジタルアニーラは、デジタル回路を用いて量子コンピュータと同等のアニーリング処理を実現する。デジタル回路であることから、常温での利用が可能で、巨大な冷蔵設備を必要としない。企業のマシンルームやデータセンターにおいて、現状のままで設備投資することなく設置することができる。山田執行役員がアニーリング方式においてデジタルアニーラで十分とするのは、こうしたメリットがあるからだ。
カナダのQIerも評価
カナダの1QB Information Technologies(1QBit)は、D-Wave Systemsのマシン上でシステムを開発する量子コンピュータインテグレータ(QIer)であり、デジタルアニーラのサービス開始に伴い、富士通との協業強化を発表している。
1QBitのアンドリュー・ファースマンCEOは、「富士通は最先端の技術をもっている。最高の技術を使ってサービスを展開するのが、当社の方針。デジタルアニーラに期待している」と協業の理由を語る。同社にとって初めての商用サービスが、デジタルアニーラ上で展開されることになる。
また、アニーリングマシンは、ボルツマン機械学習をはじめとするAIへの応用も研究が進んでいる。画像処理や自然言語処理、データ分析が中心となっている現状のAIから、一歩進んだ展開が期待される。富士通と共同で研究を進めているトロント大学のアリ・シェイコレスラミ教授は、「富士通との研究拠点を大学構内に設けていて、ソリューションなどの開発を進めている」とし、デジタルアニーラへの期待を語った。
なお、富士通ではデジタルアニーラを活用するためのライブラリを用意しているほか、汎用的な低レベルインターフェースである「QUBO」にも対応している。そのため、今後登場すると予想されるアニーリングマシンでも利用可能なシステムを構築できるとしている。
年内にグローバル展開を視野
デジタルアニーラのクラウドサービスは、日本リージョンからスタートする。「デジタルアニーラの事業では、クラウドサービスのほか、テクニカルサービスも提供する。日本では、その両方の提供を開始したが、海外ではテクニカルサービスから開始する。クラウドサービスは、今後、順次展開していく」と、富士通の吉澤尚子執行役員常務は海外戦略を説明する。海外からの問い合わせは、デジタルアニーラの技術を発表した当時からきているとのこと。そのため、富士通では、テクニカルサービスを先行して提供している。問い合わせてくる海外の企業は、自身のビジネスの課題解決にアニーリングマシンの適用がイメージできているという。
アニーリングマシンには、富士通のほか、日立製作所やNEC、NTTなども取り組んでいる。IBMやマイクロソフト、グーグルなどが注力する量子ゲート方式は、実ビジネスでの活用方法がみえていない。アニーリングマシンでリードする国産勢にとって、飛躍のチャンスとなると期待される。(畔上文昭)
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