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SAPの変革に既存パートナーはついていけるか デジタルエコシステムで新たな共創の輪を拡大

2018/04/05 09:00

週刊BCN 2018年04月02日vol.1721掲載

 SAPジャパン(福田譲社長)はデジタルビジネスの市場拡大を目指し、日本企業のイノベーションを促進するための新たなコミュニティを発足させた。同社はユーザー企業の既存ビジネスのブラッシュアップに寄与するERPの世界最大手ベンダーという枠にとどまらず、事業変革や差異化、利益拡大を目的としたいわゆる攻めのIT投資の領域まで、ユーザーのビジネスを網羅的にデジタル化して成長を支援することを目指している。エコシステムのあり方もERP一本槍の時代とは異なるものであるべきだと考えているのだ。SAPのERPビジネスを支え、ともに成長してきた既存のSIパートナーは、この変革の波に乗り遅れることなく、SAPビジネスでの成長を図ることができるか。

デジタルビジネスの
オープンコミュニティが始動

SAPジャパン
内田士郎
会長

 今年3月15日にSAPジャパンは、デジタルトランスフォーメーションによるビジネスのイノベーションを実現するためのオープンなコミュニティ「Business Innovators Network」を日本でも始動させることを宣言した。SAPジャパンの内田士郎会長は、「SAPはERPからスタートしたが、いまや世界的な企業とイノベーションを推進している。このノウハウを生かし、日本企業のイノベーションをインキュベートする仕組みを立ち上げる」と話す。

 内田会長がいうところの日本企業のイノベーションをインキュベートする仕組みの中心となるのが、ERPを中心としたSoRのビジネスと新しいデジタルビジネスのパートナーエコシステムを融合した「デジタルエコシステム」だ。SAPジャパンの組織としても、従来のパートナー統括本部を解消し、デジタルエコシステム統括本部に改組した。

 デジタルエコシステムを構築し、機能させていくための具体的な戦略としては、まず既存パートナーとの関係強化により、彼らの事業領域をERPだけでなく新しいデジタルビジネスの領域まで広げてもらうよう働きかけていくほか、顧客のビジネスの網羅的なデジタル化ニーズに対応できるコンサルリソースやパートナーの各種テンプレートの拡張なども促していく。また、デジタル変革のための製品・サービス群やノウハウ、方法論などを含むフレームワークである「SAP Leonardo」のパートナーも拡充していく。現在、国内のLeonardoパートナーコンソーシアムには50社超が参加しているが、参加パートナーを増やしていくほか、ERPビジネスには無縁だったような“デジタルビジネスネイティブ”でイノベーティブなITベンダーも新しいパートナーとして開拓していく。そしてさらに、ユーザー企業やスタートアップ企業なども含めてイノベーションの共創の輪を拡大していく場として、Business Innovators Networkを立ち上げたという流れだ。シリコンバレーのSAP Labsでは、デザイン思考を駆使してユーザー企業などとの共創案件を多数創出しているというが、そのための仕組みとノウハウを日本市場にも注入する。
 

独SAP
サム・イエン
チーフデザインオフィサー

 SAP Labsのマネージング・ディレクターを務める独SAPのサム・イエン・チーフデザインオフィサーは、「イノベーションにはエコシステムが必要。SAPはシリコンバレーのSAP Labsでイノベーションのプロセスを分解して、どうしたらイノベーションが起こせるのかというパターンを蓄積してきた。東京でBusiness Innovators Networkを立ち上げることは、SAPがこれまで学んできたことをさらに発展させることになるだろう」と期待を寄せる。

 Business Innovators Networkは、「変革を志向する企業、スタートアップ、ベンチャーキャピタル、学術機関など、変革を志向する日本企業のリーダーと多様なステークホルダーを有機的に結合するオープンなコミュニティ」だとSAPジャパンの大我猛・バイスプレジデント チーフカスタマーオフィサー兼デジタルエコシステム統括本部長は説明する。現時点で賛同企業としては、SAPジャパンなどと共同でIoTプラットフォーム「LANDLOG」を提供するJVを設立したコマツ、さらにはソラコムなど、約15の企業、学術機関が名を連ねている。

パートナーには
変革のための志を求める

SAPジャパン
大我 猛
バイスプレジデント

 一方で、現時点でBusiness Innovators Networkに既存のSIパートナーが参加しているという情報はない。大我バイスプレジデントは、「イノベーションを一緒に起こしていこうという志があるパートナーであれば、これからどんどん参加してもらいたい」としている。これは裏を返せば、既存のパートナーであっても、SoRの領域にとどまらず、ユーザー企業の成長のためのデジタルビジネスに挑戦する意思がなければ、積極的にデジタルエコシステムに迎え入れるつもりはないともとれるコメントだ。近年、SAPはERP外の領域で大きく業績を伸ばし、パートナーにもデジタル変革の時代のニーズに対応すべく変革を促しているが、その流れがさらに加速しそうだ。(本多和幸)
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外部リンク

SAPジャパン=http://www.sap.com/japan/index.epx