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AWS re:Inventレポート エンタープライズ分野は パートナーの力によって イノベーションが起きる
2017/12/21 09:00
週刊BCN 2017年12月18日vol.1707掲載
クラウドサービスは
イノベーションの基盤
パートナー向けのキーノートは11月28日朝に行われ、AWSのテリー・ワイズ・アライアンス担当バイスプレジデントが登壇し、同社の取り組みなどを紹介した。テリー・ワイズ・アライアンス担当
バイスプレジデント
パートナーありきのイノベーションとして、最近では「Amazon Lambda」をはじめとするサーバーレスのサービスを採用するケースを紹介。事例として岡三オンライン証券が2週間という短期間の開発でサービス提供を開始したことを取り上げた。ちなみに、AWSはre:Inventの期間中、新たなサーバーレスサービスとして「Amazon Aurora Serverless」を発表。同サービスは、利用した分だけ課金されるサーバーレスのリレーショナルデータベースである。しきい値などをトリガーにSQL文を実行するなど、まずはIoT分野での活用が想定される。
また、ワイズ・バイスプレジデントは、もっともわくわくするテクノロジーとしてブロックチェーンを取り上げて、T-Mobileなどのビジネスシーンで活用されていると紹介。AWSとしても、ブロックチェーンに投資していくと宣言した。IBMやマイクロソフトなどが積極的にブロックチェーンに取り組んでいる一方で、AWSは関心がないと思われていた分野だけに、会場では意外性をもって受け入れられた。
CTCが国内8社目のプレミア認定
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、「CUVIC」ブランドで2008年から自社のクラウドサービスを展開している。その同社がAWSに取り組み始めたのは、12年のこと。取り組み開始から5年でAWSプレミアコンサルティングパートナーの認定を受けた。藤岡良樹執行役員 ITサービスグループ クラウド・セキュリティサービス本部本部長(写真左)、
江口 智・クラウド・セキュリティサービス本部クラウドインテグレーション部AWSエキスパート課課長
「当社の既存ユーザーはCUVICを選ぶ傾向にあるが、新規ユーザーはAWSを希望することが多い」と藤岡良樹執行役員。顧客ニーズによって、AWSに取り組むようになったという。
そうしたなかで、CTCはAWSプレミアコンサルティングパートナーの認定を目標にしていた。その理由について江口 智・AWSエキスパート課課長は「大規模案件において、ユーザー企業がベンダーを選ぶにあたって、AWSプレミアコンサルティングパートナーであることによって、選択肢に入りやすい」ことから、案件数の拡大が期待できるという。
また、藤岡執行役員は、AWSプレミアコンサルティングパートナーについて、ステータスになることに加え、自信もついたと実感。「AWSプレミアコンサルティングパートナーの要件事項は、かなりハードルが高い。それをクリアできたことや、クリアするにあたって多くのことを学んだことが自信につながっている」。認定を取得するにあたっての工程に意味があるということも、評価している。
今後について江口課長は、「AWSからいち早く情報が入るようになった。今までは検証済みのソリューションしか顧客に提案していなかったが、顧客とともにディスカッションしながら進められるような態勢を整えたい」と考えている。顧客へのアプローチを変えることで、ビジネスのスピード向上を期待している。
AIサービスのAmazon Lexは
75%以上がパートナー経由
AWSが昨年ローンチしたAIサービス「Amazon Lex」は、75%以上がパートナー経由での提供となっているという。AIに関しては、今後も需要増が見込まれるため、コンサルティングパートナーとテクノロジーパートナーの両方でパートナー施策を強化していく。AWSはグーグルやマイクロソフトなどと比較して、AIへの取り組みが遅れているといわれることがある。これに対し、アマゾン・ドット・コムにおいて、どこよりもAI活用の実績があるとし、AWSでもその経験が生きているというのが、同社のアピールポイントとなっている。
続いて、ワイズ・バイスプレジデントは、新たなパートナー制度として「AWS ネットワーキングコンピテンシーパートナー」を発表。初年度として、TOKAIコミュニケーションズをはじめとする18社を認定した。
パートナープログラムを充実させていく一方で、今後はユーザーとパートナーをマッチングする仕組みづくりにも取り組むという。「ユーザーは、パートナーのことをもっとよく知りたいと望んでいる。パートナーの得意分野がわかれば、ユーザーは発注しやすくなる」とワイズ・バイスプレジデント。マッチングの仕組みによって、よりよいエコシステムの構築を目指す考えだ。
AWSでのWindows利用や
SAP環境の移行が増加中
AWSはサービス数で競合他社を圧倒している。とはいえ、多様なユーザーニーズのすべてに対応するのは不可能であることから、マーケットプレイス上で他社のソフトウェアを提供している。マーケットプレイスでソフトウェアを提供するベンダーは1万社を超えるという。そうしたなかで、伸びている三つのソフトウェアを紹介。一つは、Windows。多くのパートナーが、AWS上でWindows環境を構築しており、その数は毎年倍々で増えているという。
二つめは、SAPのERP。インメモリデータベースの「SAP HANA」を含め、SAPのソフトウェアはすべてAWS認定となっていることもあり、SAPの稼働環境として、多くのパートナーがAWSを選択しているとのこと。
三つめは、VMware。ヴィエムウェアはAWS上で「VMware Cloud on AWS」を提供しており、AWS上でのVMware環境の構築に注力している。また、AWSもVMware環境を考慮し、EC2インスタンスに「ベアメタル」を追加。ベアメタルではハードウェアを専有できるため、VMware環境の構築や運用、保守などに取り組みやすくなる。
AWSは5年後には売り上げの50%をソフトウェア(SaaS)にするとしており、そのためにも魅力のあるマーケットプレイスにしていく考えだ。
エンタープライズ分野では
クラウド活用は初期段階
アンディ・ジャシーCEO
そうしたなかで、「今後もイノベーションやパートナー施策に投資していく。競合他社とのギャップは広がる一方になる」と会場のパートナーにアピールした。
ジャシーCEOはパートナー施策に注力する背景として、「AWSの売り上げは180億ドルだが、エンタープライズ分野は初期段階にある。米国において、ようやく動き出したところ。米国以外では、米国より14か月遅れて動き出す傾向にある」ことを取り上げ、エンタープライズ分野の開拓にはパートナーの力が不可欠とした。なかでも、グローバル展開をしている大手SIerに投資することで、エンタープライズ分野を深く広く開拓していく考えを発表した。「エンタープライズ分野では、ユーザー企業がクラウドへの移行を決断すると、大規模案件につながる。また、長期の関係構築ができる。そのため、パートナーには一緒にビジネスをつくるという意思をもっていただきたい」とジャシーCEOは呼びかけた。
また、エンタープライズ分野を開拓するトリガーとして、ジャシーCEOはデータベースを例に挙げた。「エンタープライズ分野は、古いデータベースプロバイダから自由になりたいと望んでいる。古いデータベースに縛られたままでいいとする理由はない。多くのユーザー企業はオンプレミス環境を使っているが、果たして幸せだろうか。AWSで提供するデータベース『Amazon Aurora』は、高いパフォーマンスとコスト効率の高さでユーザーの支持を得て、急成長している」ことから、クラウド移行でネックとなりがちなデータベース環境においても、AWSは十分に対応できるとした。また、そのためにも「クラウドへのシフトには、パートナーの支援が欠かせない」ということになる。
プレミアに新規認定は15社
日本からはCTCが選ばれる
APNパートナーにおいて、最高峰に位置するのが、「AWSプレミアコンサルティングパートナー」だ。ワイズ・バイスプレジデントは、新たに認定した15社を紹介。日本企業からは、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)が認定された。日本企業のAWSプレミアコンサルティングパートナーは、8社目となる。国内では、三菱東京UFJ銀行に象徴されるように、AWSにコミットする企業が増えてきている。大規模案件では、入札条件にAWSプレミアコンサルティングパートナーを求めることがある。そのため、大手SIerでは、AWSプレミアコンサルティングパートナーを取得しているかどうかが、今後のクラウド関連の売り上げを左右する可能性がある。
最後にワイズ・バイスプレジデントは、次のように会場に呼びかけ、講演を締めくくった。「AWSはパートナーとともにマーケットをつくり、事業を成功へと導いていく。パートナーと一緒にユーザー企業のイノベーションを支援し、未来をつくっていきたい」。
re:Inventのセッションに
AIベンダーのABEJAが登壇
re:Invent 2017では、実に1000を超えるセッションが用意されたものの、日本企業が登壇するセッションは少ない。そうしたなかで、存在感をみせたのが、AIサービスに取り組むスタートアップ企業のABEJAだった。岡田陽介代表取締役社長(写真左)、
河崎敏弥・プラットフォーム事業部リードエンジニアによるデモンストレーション。理解しやすい基本的な機能として、カメラが捉えた人間の年齢をリアルタイムで表示し、ABEJA Platformの可能性を説明した
ABEJAの岡田陽介社長は、AIプラットフォーム「ABEJA Platform」を紹介し、AWS上に送ったストリーミングデータを取得し、AIで分析するデモンストレーションを実施。デモンストレーションでは、河崎敏弥・プラットフォーム事業部リードエンジニアが壇上で仕組みを解説した。セッションの終了後は、参加者の多くが岡田社長と河崎氏を取り囲み、仕組みやビジネス展開などについて熱心に質問していた。
セッション終了後のインタビューにおいて、岡田社長は「ABEJA Platformは、Kinesis Video Streamsがなくても利用できるが、対応するカメラが限られていた。Kinesisに対応するカメラは多く、より活用しやすくなる」と期待している。
Kinesis Video Streamでは動画の解析が可能で、例えばソファに犬が乗ったら知らせるといった処理が可能になっている。その点で、ABEJAの競合になりそうだが、「ABEJA Platformは小売りの現場などで実績を積んできているほか、データを解析するための粒度がまったく違う」と、岡田社長は説明する。ただ、AWSのサービスが進化することを歓迎し、「いい関係を維持したい」としている。すでにアジアに進出しているABEJAは、米国への本格進出を目指しており、AWSとのパートナーシップが追い風になることを期待している。
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