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クラウド・ビジネス始めたければ、セールスフォースに駆け込め

2017/11/14 13:37

 セールスフォース・ドットコム日本法人(小出伸一・代表取締役会長兼社長)は、自社開発ソフトをもつ全国の独立系ソフトウェアベンダー(ISV)やシステムインテグレータ(SIer)などを対象に、低リスクでクラウド・ビジネスを始めるための活動を加速している。同社が提供するクラウド型プラットフォーム「Force.com」上で開発したビジネスアプリケーションが提供されているエンタープライズクラウドマーケットプレイス「AppExchange」のインストール数は、世界で500万件を突破するなど、同社のインフラを使ったクラウド展開の勢いが止まらない。同社の顧客や開発者で形成する「Salesforceエコシステム」に加わることで、ISVなどはどんな効果が期待できるのか。伊藤哲志・マーケティング本部プロダクトマーケティングシニアマネージャーに聞いた。

 AppExchangeは、リリースから11年が経過した。総インストール数は500万件を超え、フォーチュン100の89%で使われている。同社によれば、Salesforceエコノミー(経済圏)を加速する顧客、パートナー、開発者で構成するコミュニティは、年々成長を続けている。調査会社IDCによると、セールスフォース・ドットコム自身に加え、パートナーや顧客によるSalesforceエコシステムは、2020年までに世界で8590億ドルの新規ビジネスを創出すると予測している。
セールスフォース・ドットコムの伊藤哲志・
マーケティング本部プロダクトマーケティングシニアマネージャー

 世界のパートナー数は約1500社。パートナーが開発しAppExchange上で提供するクラウド・アプリケーションは、約3300ある。だが、「外資系企業が開発したアプリだけでは、日本市場をカバーしきれない。日本市場の特性に応じたアプリをパートナーと一緒に増やすとともに、このエコノミーを拡大したい。当社と協業することで、パートナーがクラウド・ビジネスで成功できるように支援していく」と、伊藤シニアマネージャーは語っている。
 
 このため同社は、「日本市場の特性に応じたアプリを提供するISVに対し、意識的にパートナーになるよう勧誘してきた」(伊藤シニアマネージャー)という通り、帳票やグループウェア、勤怠管理、会計など日本市場で独自に使われているアプリが充実してきている。今年9月には、会計ソフトのfreeeが提供する「クラウド会計ソフト freee」とセールスフォース・ドットコムが提供するクラウド型営業支援・顧客管理ソフト「Salesforce Sales Cloud」と、請求データに関するAPI連携を行って、連携アプリ「freee for SFA」の提供を開始している。
 
インタビューに応じたセールスフォース・ドットコムの伊藤シニアマネージャー(左)と、
週刊BCNの谷畑良胤編集委員

 セールスフォース・ドットコムのインフラを活用しないまでも、多くのISVや自社ソフトをもつSIerがクラウド・サービスを開始している。だが、クラウド・サービスの立ち上げには、いくつかのハードルがあり、成功への道筋を描けていないベンダーは少なくない。クラウド・サービスを始めるには、インフラとしてIaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)を自社で構築するか、パブリックなクラウド利用に使うプラットフォームを選択して、その基盤上に自社アプリを開発する必要がある。

 ISVが自社ですべてを展開する場合は、クラウド・サービスで収益を得る前に開発コストなどの初期投資が発生する。そこに二の足を踏み、オンプレミス(企業内)のパッケージソフトのビジネスから脱することのできないベンダーは多い。伊藤シニアマネージャーは、「当社は、ISVなどがSaaSビジネスを開始するための機能を備えている。ライセンス管理やバージョンアップに関連する機能、注文管理のほか、開発とテストを管理する環境などを備えている。また、セキュリティ環境は堅牢で、これまでに事故がゼロだ」と、競合するAWS(Amazon Web Services)と異なる面を強調する。

 ISVがクラウド・ビジネスに踏み込む上で、最大の障壁は初期投資コストだ。これについては、「当社は『レベニューシェア』方式を採用しているため、クラウド・サービスを構築する上の初期投資は、ほとんどない。AppExchange上で販売し売り上げが出た段階で初めて、当社とISVで売り上げをシェアする。また、サービスは『サブスクリプション』モデルであり、月額ベースで売り上げが計上される。顧客が継続的に利用すれば、将来的な売り上げの見込みが計算でき、ISVの経営は安定する」(伊藤シニアマネージャー)と、クラウド・サービスを始めるリスクが少ないという。

 ISVのアプリがAppExchange上に掲載されたあと同社では、「ISVと一緒に販売する方法を考える。当社では、社内勉強会を開き、各ISVアプリの特徴を学んでいる。当社の商流は8割が直販だ。エコシステムの一員になっていただければ、この商流を使って市場を開拓することができる」(伊藤シニアマネージャー)と、マーケティング力が不足するISVも、同社の支援策に乗り市場を拡大できる。例えば、福岡市に本社を置くグルーヴノーツは今年6月、同社が提供するGoogle AI(人工知能)を使った分析ツール「MAGELLAN BLOCKS」の販売をAppExchangeで開始した。伊藤シニアマネージャーは「CRM(顧客情報管理)やSFA(営業支援)など、AppExchange上にあるアプリのデータをこのツールで分析できるようになった。利用する企業は、データサイエンティストを採用せずに、シンプルにAIを活用できる」と、同社インフラを使って早期にビジネスを立ち上げることができると話す。
 
10月末にリニューアルした「AppExchange」のサイト

 今年10月末には、AppExchangeのサイトをリニューアルした。同社によれば、「エンドユーザーの流入を増やすことができ、インダストリー(業種)カットでマーケティングができるよう強化した」(伊藤シニアマネージャー)と、引き続き機能強化を図る方針だ。伊藤シニアマネージャーは、「あまり知られていなくても、きらっと光ったテクノロジーを持っていたり、業種・業務カットで特徴をもつISVなどをパートナーに加えていきたい」と、パートナー獲得策を積極化する。
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外部リンク

セールスフォース・ドットコム=https://www.salesforce.com/jp/