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SAPジャパン、中堅中小企業向けパートナービジネスの本気度をみた! 週刊BCN記者が「Business ByDesign」のワークショップに潜入(上)
2017/05/29 17:44
クラウドERPがパートナーに新たな商機をもたらす
初日となる22日、那覇市の国際通り沿い、ゆいれーる・牧志駅近くのホテルに全国から集まった参加者はまず、Business ByDesignのビジネス戦略についてレクチャーを受けた。SAPジャパン パートナー統括本部パートナー営業本部シニア・パートナー・ビジネスマネージャーの原剛氏は、直近のSAPジャパンの施策について概略を説明。同社は今年4月、「過去に例のない本気度で中堅中小企業向けビジネスに取り組む」(牛田勉・バイスプレジデントゼネラルビジネス統括本部統括本部長)方針を発表し、従来よりも小規模な顧客層までターゲットを広げるとともに、ハイタッチ営業、パートナー営業を統合した中堅中小企業向けビジネス専任の営業組織を設立し、同社内のリソースも大幅に拡充した(関連記事=SAPジャパン なるか、悲願の中堅中小企業向け市場攻略 デジタル変革のニーズが追い風に? を参照)。パートナー統括本部パートナー営業本部シニア・パートナー・ビジネスマネージャー 原剛氏
原氏は、こうした方針を参加者にあらためて解説し、「SAPというと大企業向けのERPというイメージが浸透しているだろうが、2015年以降は、それ以外のビジネスの売り上げのほうが大きくなっている。昨年からは、いよいよ中堅中小企業向けのクラウド商材の拡販に本格的に取り組んでおり、実際、クラウドの新規受注は前年比193%増という水準になっている。このビジネスは、パートナー経由の再販で大きな成長を図るというのが基本的な方針であり、SAPジャパンの営業体制も変更し、パートナーの皆さんをしっかり支援していく体制を整えた」とコメント。そのうえで、「こうした戦略のなかでも、Business ByDesignは一番力を入れている重要な製品」とし、SAPジャパンが中堅中小企業向けクラウド商材のパートナービジネスに本格的に舵を切り、“大規模ERP専業”のイメージを本気で変えようとしていることを強調した。
続いて、SAP Business ByDesign シニアプリセールスの加藤慶一氏が、ERP市場を取り巻く環境の変化やBusiness ByDesignの強み・特徴について説明した。加藤氏はまず、「SAPのERPを導入するユーザーの7割が、何らかのかたちでクラウドを選択するようになっている」として、ERPにもクラウドファーストの流れが到達していると指摘。「とくに米国や英国では、合理的な理由がなければクラウドを選択しないことが認められない状況になってきている。日本では、B2Bの業務用アプリの領域でそこまでの感覚はないかもしれないが、米国や英国のトレンドが2~3年で日本でも一般的になるのはこれまでの歴史が証明している。SAPの競合となるERPベンダー各社もクラウドへのフォーカスを強めているし、国内ではスモールビジネス向けのクラウド会計として出てきたfreeeなども、ERPを指向していて、いずれは手ごわい競合になるという感覚がある」とした。
SAP Business ByDesign シニアプリセールスの加藤慶一氏
そうしたなかで、Business ByDesignにはどんな差異化ポイントがあるのだろうか。加藤氏は、「SAPのラインアップでいうと、Business ByDesignは、(フラッグシップ製品の)S/4HANAと(従来の中堅中小企業向けERPである)SAP Business Oneの間を埋める存在。大企業向けERPと同様のクオリティをSaaS形式で、中堅・中小企業にも現実的なコストで提供できる。製品展開は紆余曲折があったが、近年、HANAにプラットフォームを移して以降、グローバルで急成長しており、3867社、120か国で使われている」と説明した。
“SAPクオリティを手頃なコストで”という観点でBusiness ByDesignの大きな特徴になるのが、36種類の「ビジネスシナリオ」を活用して、短期間で導入できる点だ。ビジネスシナリオとは、SAPが既存のERPビジネスで蓄積してきたさまざまな業種・業務の知見をベースに、それぞれの業務領域のベストプラクティスを実装したもの。ユーザーは、このビジネスシナリオに沿って必要な機能を選択することで、ビジネスプロセスをスピーディかつ簡単に構築できるという。加藤氏は、「例えば、日本のSIerが中国でIoTデバイスの物販を新規ビジネスとして立ち上げることになったとして、古いERPなら本稼働まで3年かかっていたかもしれないが、Business ByDesignなら2~3か月でできる。さまざまな項目の設定には複雑な依存関係のようなものがあるが、それもすべてシナリオに組み込んでいる。各国地域のローカル向け設定のプリセットも豊富だし、マスターデータの登録・移行の手間を最小化するツールもSAPから提供している」と話し、実際にデモを交えてその手軽さをアピールした。
加藤氏は、Business ByDesignを扱うことがパートナーにとってどんなメリットがあるのかについても触れた。「SaaSになると導入の部分はかなりビジネスボリュームとして小さくなるので、従来のERPビジネスのようにそこで儲けるかたちにはならない。サブスクリプション方式で提供する商材なので、パートナーの収益モデルもストック型になる。ただ、サービスで稼げないかというとそんなことはなくて、通常2~3人でチームをつくってプロジェクトを担当してもらうことになるが、同時期に並行して三つ程度のプロジェクトを回すことができるし、導入までの期間も短いため、より多くの案件を手がけることができる。また、Business ByDesignのパッケージでは提供していない細かい機能をアドオン開発して、広く他のパートナーにも水平展開するISVとしてのビジネスにも大きな可能性があると考えてほしい」。
また、再度登壇した原氏が、Business ByDesignの基本的なパートナープログラムについてPRした。「最終的に、パートナーの皆さんには、営業活動から契約に至るまで包括的に担当してもらうVAR(Value Added Reseller)として活躍してほしい」としつつも、VAR契約は年会費が必要になるため、年会費が不要な、よりライトなプログラムも用意していることを説明。パートナーに対する門戸を広く開放していることを強調した。
ERPを使ったビジネスシミュレーションゲームで盛り上がる
初日のプログラムのハイライトになったのが、ERPを使ったビジネスシミュレーションゲーム「ERPsim for SAP S/4HANA」の体験セッションだ。このゲームは、文字通り、S/4HANAをベースに、カナダのベイトン・シミュレーションズ(ビジネスソフトウェア活用のコンサル企業)が開発したものだ。今回の体験セッションでは、参加者は4人で一つのチームを組んだ。各チームは6種類の商品(天然水、炭酸水、レモン水、それぞれの500ミリリットルパッケージと1リットルパッケージ)を扱う飲料品の卸売業者としてビジネスを展開し、1ラウンド20日間の3セット、計60日間(ゲーム上は45秒程度で1日が経過する)で、ERPを駆使しながらどれだけの利益を上げることができるかを競い合った。チームを構成する4人は、販売価格を決定する営業担当、マーケティング費用を決定するマーケティング担当、発注を行う購買担当、各担当に方針を指示するCEOという四つの役割に分かれ、それぞれの業務にあたるという設定だ。ゲームが進むにつれて白熱の度合いも増す
リアルタイムに変動する情報をみながら戦略を立てる
なんと、この日は記者もゲームに参加することになってしまった。しかも、記者以外の実務経験に乏しいという消去法的選択により、アサインされた役割はCEO。何が何だかよくわからぬままにゲームは始まった。CEOとしては本来、自社の在庫情報はもちろん、市場での小売価格の推移や競合の動向など、さまざまな情報を分析しながら各担当者に指示を出さなければならなかったのだが、そう簡単にはうまくいかず。ビジネス経験豊富なチームメイトにおんぶにだっこ状態で、何とか10チーム中6位という無難?な順位でゲームを終えた。
当然のことながら、仕入れ原価と販売価格、マーケティング費用には、黄金律と呼べるようなバランスがあるわけではなく、変化し続ける市場の状況をみながら、適宜調整しなければ、利益を上げ続けることはできない。また、そのためには、リアルタイムにさまざまな情報を収集しつつ部門間で共有し、統一した戦略のもとに各担当者が業務を遂行する必要がある。実際のビジネスはもっとずっと複雑で、より多様な要素が複合的に絡み合うものであるにせよ、そうしたプロセスを実現するには、データを記録するだけでなく、データを活用するためのシステムとして、ERPが大きな役割を果たすということを実感できる体験だった。
全チームとも、ほぼ初対面のメンバー同士がチームを組むかたちになったが、ゲームが進むにつれて一体感が増していったチームが多かったという印象だ。ゲーム形式での競争は、思いのほか多くの参加者の心に火をつけたか。予想以上に白熱し、参加者同士も打ち解けた雰囲気のなか、初日のプログラムは終了した。(本多和幸)
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