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日系IT企業の中国ローカル市場開拓 元従業員が新たな販路に 離職前提の人材戦略の必要性

2015/04/16 18:59

週刊BCN 2015年04月13日vol.1575掲載

【上海発】ローカル市場の開拓に成功している日系IT企業はほとんどない。その理由は、ローカル企業に対するコネクションが希薄であったり、パートナー企業の確保が不十分であったりすることにある。しかし最近、日系IT企業の元従業員が新しい販路となって、ローカル市場の開拓にうまく作用するケースが出てきた。(真鍋武)

 中国ローカル市場の開拓の例として、派程(上海)軟件科技(アスプローバ上海、徐嘉良総経理)が挙げられる。同社は近年、現地SIerなどのパートナーを通してローカル企業の開拓に力を注いでいるが、パートナーのなかには、上海盛頡自動化科技(MaxProva)の盛丁国・售前総監など、アスプローバ上海の元社員が所属しているケースが増えている。

 恩梯梯数据英特瑪軟件系統(上海)(NTTデータ イントラマート上海、大利秀幸総経理)では、元従業員の卞永杰氏が、退職後にSIerの上海今曦計算機信息技術を設立。現在、システム開発基盤「intra-mart」を扱う専業ベンダーとして、中国ローカル企業向け提案に注力している。

 対日オフショア開発を目的に1984年に設立された北京核心軟件(北京コア、馬聡総経理)では、円建てのオフショア開発の売上比率が減少し、2014年度(14年12月期)は元建ての中国国内ビジネスが売上の7割にまで拡大。中国資本のユーザー・IT企業への人材派遣や受託ソフト開発がその中心ビジネスで、案件獲得に役立っているのが元社員のコネクション。吉田茂之総経理助理は、「かつて当社に勤めたことがあって、現在は中国ローカル企業でそれなりの役職に就いている人が相当数いる」と説明する。

 このように、元従業員が現地SIerに転職したり、IT企業を起業したり、ユーザー企業の情報システム担当者になったりして、ローカル市場開拓への新たな販路になるケースが出てきている。一般的に、新規にパートナーを開拓した場合は育成に手間がかかるが、自社商材を熟知している元社員ならその手間は不要。今後も離職者は一定の割合で増え続けるので、その分だけ新たな販路の可能性が増えていくことになる。

 日本と比べて、中国の離職率は高い。IT業界では、近年、中国資本のインターネット関連企業に人気が集中しており、とくに対日オフショア開発会社では、人材の流出が懸念事項になっている。そのため、多くの日系IT企業は、離職率を抑えるために、社員旅行を開催するなど、従業員のモチベーションを高めるための対策を講じている。

 確かに、離職率の低減は重要だ。しかし、それだけでは十分ではない。今後は退職者が一定の割合で出ることを前提条件とした人材活用戦略が求められるだろう。例えば、退職後の起業奨励制度を設けたり、現地SIerに転職する場合には、転職先が自社商材の販売代理店となれば通常のパートナー契約よりもマージンを優遇したりするなどが考えられる。中国は人脈社会だ。効果的な策を講じれば、元従業員を新たな販路として有効活用できる可能性が高まると考えられる。
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